1.開発の社会的背景
我が国のエネルギー消費は、オイルショック当時の1973年度から2011年度にかけて概ね右肩上がりで増加しています。部門別では、産業部門で省エネの取り組みが進み0.9倍となったものの、様々な電気製品の普及が進んだこと等により、家庭部門と業務部門を合わせた民生部門では2.4倍、運輸部門も1.9倍と大きく増加しています(※2)。 (※2 出展:エネルギー白書2013(資源エネルギー庁)) 昨今の地球温暖化等環境問題やエネルギー事情を鑑み、省・創エネルギーの取り組み強化は急務となっており、特に再生可能エネルギー活用、クリーンなエネルギー利用の重要性が高まっています。 その中で、再生可能エネルギーを有効かつ、クリーンに利用するために、様々な創エネルギー機器(太陽電池、風力発電等)と同時に蓄電池システムの利用、あるいは電気自動車、ハイブリッド自動車等が市場に展開されています。蓄電池システムや電気自動車で利用される電池は、一般にリチウムイオン電池が使用されていますが、さらなる改善が求められています。
2.研究の経緯
環境貢献企業のトップを目指している積水化学は、これまで培ってきた高機能フィルムを武器として革新的な環境製品の創出を進めてきました。 特にエネルギー材料・デバイスについて注力してきており、その中でもリチウムイオン電池につきましては、現状の課題である「重さ」・「スペース」・「安全性」・「容量」を解決するために、電池材料及び電池生産プロセスの研究開発を進めてきております。 また、2012年度からは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施している「リチウムイオン電池応用・実用化先端技術開発事業」の支援を受けて研究加速に取り組んできております。 その中で、画期的な高リチウムイオン伝導性を有する材料開発や既存のプロセスでは実現できない大面積/長尺の電池セルを作製可能なプロセス開発等といった革新的で挑戦的な開発に取り組んできました。
3. 今回開発した大容量フィルム型リチウムイオン電池の特長
リチウムイオン電池とは、非水電解質二次電池の一種で、電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担う二次電池です。現在では、正極にリチウム金属酸化物、負極にグラファイトなどの炭素材、そして、電解液を用いるのが一般的となっています。 電解液を用いることは、リチウムイオン電池の安全性を高める上での障害となっており、様々な研究機関が電解液の固体化の検討を進めていますが、性能・生産性の観点から電解液が主流になっている状況です。 積水化学は、電解液のゲル化に着目し検討を進めてきており、このたび、ゲルタイプ電解質として高イオン伝導性(当社比 約10倍)を有する新規有機ポリマー電解質材料を用いることにより、従来の真空注入プロセスではなく、連続塗工プロセスによる電池セル高速連続生産(当社比 約10倍)と高安全性を実現する見通しを得ました。さらに、その性能を最大限発現可能な高容量ケイ素系負極材料も新たに開発し、高容量化(電池セルにて900Wh/L)を実現する見通しを得ました。 「フレキシブル」・「薄型」・「長尺・大面積」でありながら実用性能を有する大容量フィルム型リチウムイオン電池の開発により、大幅に最終製品の形状設計の自由度が向上し、自動車・住宅・電子機器等の最終製品における従来にない「軽量化」・「省スペース(大きさ1/3)」・「設置形状自在によるデザイン性向上」が期待されます(※3)。
※3 本フィルム型リチウムイオン電池の提供価値
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①軽量化
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重さが従来の約1/3になることにより、電池そのものによる移動に係わる投入エネルギーを削減することが可能と考えています。
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②省スペース化
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小さく、薄くなることにより、コンパクトに収納することができ、余った空間を有効利用できます。
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③デザイン性
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形状自由度の高さを利用すれば、今までデッドスペースだった場所にも設置が可能になり、更に空間を有効利用できます。
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写真2 フィルム型リチウムイオン電池(※4)
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※4 フィルム型リチウムイオン電池の想定サイズは、現在、サイズが長さ200cm、幅30cmまで、厚み0.3~5mm (ただし、設計容量によりサイズは変ります)。
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4.今後の事業展開について
今後、積水化学は、製品化に向け改良を重ね、2014年夏を目処にサンプル提供を開始し、試作・評価を経て、2015年度には上市予定です。
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