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自然に学ぶ研究事例

第8回ウィルスに学ぶバイオ素子
医療技術
微生物資源
感染と治療の鍵をにぎるウイルスの秘密の突起
ウイルスが子孫を生み出すために起こる「感染」 彼らは、ナノレベルの複雑な突起と形状を利用し、細胞に効率的に吸着し、悪玉DNAを注ぎ込む。 その機構を逆用、善用する、ウイルスに学ぶ新技術とは?
ウイルス (写真:人工突起を持つナノ粒子)
ウイルス (写真:人工突起を持つナノ粒子)

ウイルスは、細菌よりも小さな病原体の一種で、生物と無生物の特徴を併せ持つ。 蛋白質と核酸のみからなり、生物ではないとする説もある。なかでも、表面に均一に並ぶ「突起」を有した金平糖型のものが代表的で、写真はそれを人工的に模倣したナノ粒子。 100nm~500nmオーダーの球状ポリスチレンにアクリル樹脂を塗り、散逸現象を利用した結晶化によって、見事な突起が発生している。

ウイルスは、その恐ろしい性質とは裏腹に、核酸とタンパク質が形づくる美しい形状を持っています。インフルエンザやエイズのウイルスは、幾何学的な凹凸を持っており、SARSの原因となるコロナウイルスも表面に大きな突起が並ぶ金平糖型です。

その他地球上には、長細かったり、葉巻型だったり、円盤型など様々な形状をしたウイルスが存在しています。

形態形成の効率から見れば、真球に近づくべきはずのウイルスがなぜ、こうした無意味とも思える、複雑な形態を備えているのでしょうか。実はそこにナノ世界の物性に裏付けられた、生き残るためのノウハウが存在していたのです。

ウイルスが子孫を生み出すために起こる「感染」は、まず動物の体内に侵入し、細胞に接触してDNAを流し込むことで起こります。その時、無数の突起は、表 面積を大きくして吸着力を高め、分子が自律的に揺れるブラウン運動を利用し、細胞接触時の圧力を強化するのです。いかに効率良く細胞に取り付くか。それ が、ウイルスの突起の秘密だったのです。

そして今、ウイルスが病気を生み出す機能を“病気を治す機能”へと応用する、バイオ素子の研究が登場しようとしています。人工的にウイルス型のナノ粒子を 生み出し、悪玉DNAではなく、治療を促す免疫原を流し込めば、ワクチンが誕生します。突起にレクチンなどのウイルスと接着しやすい物質を塗り、そのサイ ズのウイルスだけを捕まえることもできるのです。

このウイルスの形を人工的に作り出す秘密は、散逸構造にあります。代表的な例は、空に浮かぶ雲。水蒸気は通常、空気中に満遍なく拡散されているのですが、 一つの塵やゴミに付着した時、それを核として、集まり、繋がることでどんどん大きな雲へと成長していきます。この特徴を応用して、小さなポリスチレンの表 面でアクリル樹脂を結晶化させると、それが突起となって、人工ナノ粒子が出来上がったのです。そして、普通のウイルスの大きさは最大300nm程度、エイ ズウイルスは小さめの100nm前後ですが、この人工ウイルスは直径100~500nmまでと、本物とほぼ同じ大きさを再現することが可能なのです。

また、そのアクリル樹脂の突起間距離を100nm程度にし、その隙間にレクチン(エイズウイルスや赤血球、白血球を吸着させる物質)を塗っておくことで、 大きな物質(赤血球や白血球)は除外し、100nmのエイズウイルスだけを取り去ることが可能となります。血液製剤などのウイルスを予め取り去ることに よって、これによる感染を未然に防ぐことも可能となるでしょう。

ウイルスの形態と生態の研究、ナノテクノロジーによる摸倣創製と物性の研究。両者の素晴らしい出会いが、ナノ粒子が集まってつくる中空の球に、抗がん剤な どの薬品を閉じ込める薬物除法担体(DDS)の開発、血液製剤に混入したエイズウイルスの除去技術などに結実しようとしているのです。

金平糖型の人工ウイルスを水へ入れ、それを冷凍し乾燥させると、凍って体積が大きくなった水は、ウイルスを押し出します。それらは、互いに集まり、突起が 歯車のように噛み合って、中空の球体ができることが発見されました。この内部に薬などを閉じ込めることで、DDSに利用できるのではないかと、更に実用に 向け研究が行われています。ウイルス型粒子は、物性の解明とともに、次世代の医療に役立つものづくりにも大きく貢献していくことでしょう。

金子 達雄助手

大阪大学大学院 工学研究科

私は今まで、石油由来の多様な材料を研究してきました。燃えないプラスチック“スーパーエンジニアリングプラスチック”からはじまり、ポリイミドの液晶、 コンタクトレンズや人工臓器などに用いられるゲルの開発などを手掛けてきました。そのなかで、結晶化と高分子化を同時に進行させ、散逸構造を表面に形成さ せることで、金平糖型のナノ粒子ができました。条件を変化させれば、突起のサイズや並びを自在に制御することができ、突起が歯車のように噛み合うと、螺旋 状のミクロン中空構造が自己組織化で形成され、そこに薬剤などを閉じ込めることもできるのです。
現在は、石油由来の材料を利用していますが、植物由来の材料を使えるようにすること、そして生物のように常温、常圧でそれを形にすることがこれからの課題。医療分野での本格的な活躍のためにも、人体や環境に無害なアプローチを考えていきたいですね。

トピックス
「病気の原因」という認識によって混同され易いウイルスと細菌ですが、実は大きな違いがあります。 まずはその大きさ。多くの細菌は、1000分の1ミリメートル前後の大きさですが、ウイルスはその10分の1~100分の1程度と非常に小さな身体をもっています。そして、もう一つの大きな違いは、その身体が持っている機能です。一つの細胞からなる細菌は、DNAが持つ遺伝情報に従って、細胞の中に含まれるエネルギー源を利用し、タンパク質合成をして、増殖します。したがって自分自身で子孫を作り出すことが出来るのです。一方ウイルスは、DNAもしくはRNAの「遺伝」という機能以外の、タンパク質合成・エネルギー源と言うものをもっていないので、他の生物に寄生し子孫を残さなければならなく、この子孫繁栄が私たちの体内でおこることでウイルスを原因とした病気になるのです。 現在専門機関によって3万種くらいのウイルスが発見されています。それらによって引き起こされる代表的な天然痘・狂犬病などの病気は、医療技術の進歩により、解明され予防・治療が可能となりました。SARSやHIVなど、現在でも次々と新たなウイルスが発見されますが、それと同時に、戦う研究技術も日々成長・進化しているのです。
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