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自然に学ぶ研究事例

第44回生体に学ぶ新規マテリアル開発
材料・デバイス開発
生体機能
自ら歩く高分子ゲル
食物として取り込んだ栄養素を分解し、エネルギーや 体の組織となる原料をつくりだす生体の代謝システム。 命を維持するため、完璧に自律制御された 生体のメカニズムに学ぶ、新規なマテリアル開発とは?
歩くゲル
歩くゲル

ゲルの膨潤と収縮を利用し、基板にノコギリ状の凹凸をつけて方向性をもたせることで、自ら歩くゲルを実現した。写真は、その動きを連続で(①~⑬)撮影したもの。凹凸のピッチは約0.3mm。ゲル自体の大きさは、伸ばした状態で長さが1cm弱。この実験では、毎分約0.2mmの速さで歩くことに成功した

私たち生物のエネルギー源となるATP(アデノシン三リン酸)は、細胞呼吸という代謝反応でつくられますが、その1つにTCA(クエン酸)回路があります。回路内で最初につくられたクエン酸が、酸化と還元をくり返すことで7種類の酸へと姿を変え、その過程でエネルギー、炭水化物やアミノ酸の原料物質を生成しながら、再びクエン酸がつくられるという循環型回路です。この酸化還元の仕組みを利用して、動くゲルをつくるという研究が注目されています。

 

生体のTCA回路を模したBZ(Belousov-Zhabotinsky)反応と呼ばれる化学反応では、反応液中で、酸化還元による振動の波が同心円状に広がっていく様子が確認されています。この反応系をゲルに組み込み、化学変化を力学的変化に転換することで、自発的に動く“自励振動ゲル”の開発に成功したのです。

 

バイオセンサーやアクチュエータ、物質輸送などを目的に開発される従来型の刺激応答性ゲルは、温度を変化させたり、光を当てたり、動かすために外部からの刺激が必要でした。ところが“自励振動ゲル”は、自律的な酸化(膨潤)と還元(収縮)により、まるで生きているように一定のリズムで拍動をくり返すのです。そして、ゲルの化学組成、基質液の濃度や温度などの条件を変えることで拍動リズムをコントロールすることがでます。もちろん、外部刺激によるOn-offの制御も自在に可能です。

 

現在、この“自励振動ゲル”を応用した人工繊毛の作製や、ゲル微粒子を基板表面に配列し、振動の波を伝搬させて物質を運ぶ研究、屈曲をくり返すことによって自律歩行するゲルの研究なども進められています。

 

たとえば、予めプログラムされた周期で薬物を放出する薬物送達システム(DDS)、心筋細胞を模した人工心筋、極小物質を運ぶナノコンベア、さらには生物のように自由に動くマイクロロボットなど。“自励振動ゲル”が拓く可能性は無限に広がっているのです。

吉田 亮 准教授

東京大学大学院 工学系研究科

時間的、空間的に発展する材料で生体機能を実現
もともとは膜分離を中心とした人工臓器の研究をしていましたが、15年程前に縁あって、刺激応答性ゲルを利用したDDSの研究に携わることになりました。ゲルの化学的、物理的な構造によって動的な変化の仕方が変わってくることがわかり、時間的、空間的に発展するマテリアルとしてのゲルに興味を持ったのです。外部と物質やエネルギーをやりとりして構造が変化するゲルは、開放系の物質で、物質とエネルギーの流れをうまくコントロールしてやれば、生体と同じような機能がつくりだせるのではないか。そう考えたのが、自ら動くゲルを開発する原点となりました。これは、おそらく世界でも初めてのことだと思います。 いま、自励振動ゲルは、目に見えるサイズからナノオーダーレベルでも機能することがわかっています。ゆくゆくは、ナノマシンにもっていきたいですね。また、究極の目標は、人工心臓をつくることです。

トピックス
高分子ゲルは三次元的な網目構造をもち、その内部に溶媒を吸収して膨潤したもので、固体と液体の中間的な性質を併せもつユニークな物質です。高分子ゲルはさまざまな分野ですでに利用されていますが、身近なところでは、ソフトコンタクトレンズ、紙おむつがあります。また、紙おむつに利用される高級水性の高分子ゲルは、砂漠などで植物を育てる緑化事業などにも活用されています。 高分子ゲルは、温度、溶媒、pHなどの外部条件の変化に対応して、その体積が減ったり増えたりします。この性質をコントロールすることで、たとえば伸縮する素材などが可能となるのです。生体組織のような柔軟性をもち、外界とエネルギーや物質のやりとりができるゲルは、バイオマテリアルをはじめ、多様な用途への応用研究が活発に行われています。
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