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自然に学ぶ研究事例

第89回木の複合高次構造に学ぶ木質材料の開発
材料・デバイス開発
植物資源
木の特質を生かすインテリジェントバネをつくる
住宅や家具など、古来から利用されてきた木材。 温もりや風合い、柔軟性、調湿機能など、 木が有するさまざまな利点を最大限に引き出す、 木の複合高次構造に学ぶ木質材料の開発とは?
木質バネと応用製品
木質バネと応用製品

写真左は、切れ込み加工で作製したつづら折り状の多層板バネで、大きくしなる。右側の写真は試作した応用製品で、切り込み加工材を利用したバネベンチ(上段)、積層材のパーツを接合した多層板バネでつくった椅子(中段)、柔らかい木でつくったベンチ(下段)。写真協力:山代 悟、大原 温(右上段)/山田 敏博、株式会社イトーキ(右下段)

これまでの木質材料開発では、木材に樹脂を含浸したり、圧縮したりして硬くするなど、短所改善の研究が活発に行われてきました。実はこうした方向性は、膜構造やセル構造という自然が生みだした木の造型を壊すことでもあり、硬くすると同時にもろくなるという要素も含んでいたのです。しかしいま、軽くて柔らかいが丈夫で、温かみや調湿機能を有するといった木の長所を伸ばそうとする、新たな木質材料開発が注目されています。

 

木は、セルロース繊維が一方向に並んだ薄膜が、角度を変えて何枚も重なって細胞壁を作り、それがビッシリと並んで中空構造(ハニカム構造)を形成するなど、高次の複合構造でできています。樹種が異なっても基本的な構造は同じで、細胞壁の厚さ(空隙の大きさ)と細胞壁内に吸着する水分(結合水)の量が硬さを左右しているのです。この積層膜構造に注目し、木質バネをつくる研究が進められました。

 

厚さが同じでも、1枚板よりも薄板を多数枚重ねた方がたわみは大きくなり、バネのような大きく変形する素材をつくることができます。また、薄板を特殊な樹脂で緩やかに接着することで、ねじることが可能な柔らかい木もできました。そして、しなやかさや衝撃吸収性を実現している木の中空構造と、機能を維持したまま効率的に折り畳まれた染色体のらせん構造にヒントを得て、スリットを入れて積層材を折り畳んだ形状の木質バネの設計に成功したのです。

 

学校など子どもたちの集まる場所にバネベンチを設置する計画や、柔らかい木のベンチの販売なども予定されています。さらに、このバネ構造を利用することで、木材が水分の吸収・排出により数%伸縮する作用を最大化するインテリジェントバネの開発も進められています。たとえば、部屋の湿度を感知し、自動的に窓を開閉して換気する、センサとアクチュエータ機能を兼ね備えた、インテリジェントな木質素材が、近い将来、私たちの身近で利用できるようになると期待されています。

相馬智明 助教/足立幸司 特任助教

東京大学大学院 農学生命科学研究科/東京大学 アジア生物資源環境研究センター 

魅力ある木質材料で、木や森への興味を喚起したい
日本の木材自給率はいま24%程度で、林野庁は10年間で50%を目標に掲げていますが、これを達成するためには多くの努力が必要です。木は利用量を超える勢いで成長しており、日本が例外的に100%自給できる天然資源です。輸入材と較べてコストの問題はありますが、どうすれば国産材をもっと身近に使ってもらうことができるか…。そこでまず、若者や子供たちに木と森に関心をもってもうために、美しい素材、アッと驚くような素材を開発しようと考えたのです。木にはもともと衝撃吸収性がありますから、その能力を高めた木質バネをつくれば、社会にアピールできるという思いで研究を進めてきました。 太陽の恵みである木を上手に使い続けていくために、これからも新たな価値を付加した木質材料の開発、木の用途を広げる工法や利用システムの構築などにも努めていきたいですね。そして、20年後、30年後に私たちの後に続いてくれる人材を育てるのも大切な役割だと思っています。
 

トピックス
日本は国土面積の67%が森林で、そのうちの41%が戦後に植林されたスギやヒノキの人工林です。木材として利用可能とされる50年以上の高齢林は、2006年度で人工林全体の35%となり、その数は年々増えており伐採を必要としています。しかし、木材需要の低迷、林業従事者不足などにより、健全な森林経営ができないのが現状です。 木材需要については、実は国産材で100%供給可能ですが、現実は2009年で27.8%という数字に留まっています。二酸化炭素を吸収し、治水にも有効な健全な森林を維持するためには、植林、間伐、伐採、植林という手入れが欠かせません。 そのためには、木材需要を喚起することが求められており、魅力的な材料開発にも大きな期待が寄せられているのです。
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