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自然に学ぶ研究事例

第93回金属酸化物に学ぶ機能性材料開発
材料・デバイス開発
鉱物資源
新規な高機能を発現する金属酸化物微粒子
セラミックや電子材料など、さまざまに産業利用される 金属酸化物。ありきたりの金属から酸化物ナノ微粒子を合成することで、従来にない機能を発現する、 金属酸化物に学ぶ機能性材料開発とは?
イプシロン型-酸化鉄微粒子(ε-Fe2O3)と新規ラムダ型酸化チタン(λ-Ti3O5)微粒子
イプシロン型-酸化鉄微粒子(ε-Fe2O3)と新規ラムダ型酸化チタン(λ-Ti3O5)微粒子

イプシロン型-酸化鉄微粒子(グレースケールの写真)は粒径18ナノメートル(nm)で、次世代用磁気記録媒体への応用が期待される。カラー9枚の写真はλ-Ti3O5の粉末で、もとは青黒い色をしている(上段左)。室温で532nmのレーザー光を照射すると光があたった領域が茶色(上段中央)へと変化し、410nmのレーザー光を照射した部分は青黒い色(上段右)に戻り、以下、繰り返し色の変化を観測することができる。青黒い状態が金属相で、茶色い状態が半導体相である。

代表的な金属酸化物である酸化鉄は、紀元前7世紀にギリシャで発見された世界初の磁石(磁鉄鉱)を起源とし、以来、さまざまな種類の酸化鉄が顔料、セラミック材料、磁性材料などに産業利用されてきました。そして、もはや鉄酸化物では新しいものはできないと考えられていましたが、イプシロン型-酸化鉄(ε-Fe2O3)という、これまで不純物としてしか捉えられていなかった、新たな酸化鉄の相が発見されたのです。

通常、鉄を焼成して酸化を進ませると粒子がどんどん大きくなってしまいます。ところが、ウエットプロセス(溶液合成)でナノサイズに制限した水酸化鉄微粒子をつくり、粒径を保ったまま焼成する技術が開発され、通常の酸化鉄とは異なる結晶構造を有する酸化鉄ナノ微粒子を安定的につくることに成功したのです。これは、一般に利用されている酸化鉄フェライト磁石(セラミックス)に比べ3倍以上の磁気保磁力をもち、磁気テープなどへの応用が検討されています。保磁力が大きければ大きいほど、サイズを小さくしても高性能な磁気材料となります。近年、小さいサイズで高密度化が求められており、まさにニーズに応えうる材料といえるでしょう。

また、次世代高速通信としてミリ波(30GHz〜300GHz)利用が進んでいますが、これまで80GHz以上のミリ波を吸収できる材料は存在しませんでした。鉄イオンの一部をアルミニウムイオンで置換したイプシロン型-アルミニウム酸化鉄が94GHz〜182GHzまで吸収することも確認され、塗料などの電磁波干渉抑制材料開発も進められています。

さらに、同様のウエットプロセスで新規な黒色酸化チタンナノ微粒子(λ-Ti3O5)の合成にも成功しました。これは、光の照射により金属状態と半導体状態を可逆的に相転移する、世界初の金属酸化物として注目されています。希少で高価なレアメタルに代わる経済的で環境にも優しい材料として、超高密度光記録材料等への応用が期待されているのです。

大越慎一 教授

東京大学大学院 理学系研究科

ありきたりの元素から新規な機能性物質をつくる
金属酸化物はバルク(塊)とナノスケールでは、まったく異なる世界が存在します。ウエットプロセスを駆使してナノ微粒子をつくることで、同じ元素から新しい物質群をつくるという考え方で研究を進めています。私はナノスコピック相図と言っていますが、ありきたりの元素でも、これまでを超えるような機能を発揮する物質が、まだまだ見い出せるのではないかと考えています。 私たちは基礎研究をさせていただいていますが、社会に還元できるものであることを常に心がけています。学生は「自由に自分のやりたいようにやりたい」と言います。しかし、研究を達成するためには、やらなければならないことが山ほどあります。自分が不得手なこともしなければなりませんし、いろいろな努力が結果を導いてくれるんですね。
 

トピックス
酸化鉄は燃焼温度を上げることで、異なる結晶構造の相が出現し、900℃程度で磁気テープなどに利用されるガンマ(γ)相が現れ、1100℃くらいになると赤錆であるアルファ(α)相へ変わるといわれています。通常、ガンマ相からアルファ相へ変わる間に酸化鉄の粒径がどんどんと大きくなってしまい、これまではその中間のものは不純物としてしか扱われてきませんでした。この研究では、中間の1000℃で焼いたものと比較したところ、それがイプシロン相(ε)という相であることが確認されました。それを可能にしたのが粒径を保ったまま焼成する技術で、わずか数十ナノメートルの領域に現れるイプシロン相を発見するに至ったのです。
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