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自然に学ぶ研究事例

第116回バイオミネラルに学ぶ有機/無機複合体の開発
材料・デバイス開発
生体機能
超分子を使って結晶成長の制御に挑戦
骨や歯、甲殻類の外骨格、真珠層、貝殻…。 生体高分子とミネラルが非常に精緻な 複合構造をとることで多様な機能を発現する、 バイオミネラルに学ぶ有機/無機複合体の開発とは?
高分子と炭酸カルシウムの複合体薄膜
高分子と炭酸カルシウムの複合体薄膜

カルボン酸を導入したポリロタキサン超分子による結晶成長制御で得られた炭酸カルシウム薄膜の偏向顕微鏡写真。リングの数が12個の超分子による薄膜(写真上)は結晶が同心円状に、24個の超分子による薄膜(写真下)は直線状に結晶成長している。

生物たちは、骨や歯、貝殻など、さまざまなバイオミネラルを形成しています。それらは、タンパク質や多糖などの生体高分子が鋳型として働き、ミネラルがゆっくりと制御されながら結晶成長してつくられます。非常に精緻な構造をもつ有機/無機の複合材料であり、しなやかでありながら硬く、自然に優しい高強度性などの特性から、環境負荷の低減、省エネルギー性、生体親和性などを実現する次世代の高機能材料のモデルとして注目されています。

高分子と炭酸カルシウムの薄膜などがすでにつくられていますが、高機能の発現には至っていません。そこで、生物のようにゆっくり、かつフレキシブルに結晶成長を制御する方法として、ひも状の高分子に複数のリングがぶら下がったポリロタキサン構造をもつ酸性高分子に、カルシウムと相互作用するカルボン酸を導入した超分子を設計して利用する研究が行われています。溶液中でリングが移動しながらカルシウムを吸着し、結晶成長を制御するものです。

基板(テンプレート)となる高分子と開発した超分子の相互作用により、基板のゲルのネットワーク中でゆっくりと炭酸カルシウムが成長し、薄膜状の結晶が得られることが確認されています。リングだけを利用した場合は薄膜の結晶を得ることはできませんが、超分子とすることによって実現できたのです。そして、リングの数が12個、24個の超分子を設計して実験を行ったところ、同心円状と直線状という異なる結晶成長が得られることもわかりました。薄膜の表面には精緻な凹凸構造が見られ、その幅は2μmと光の波長に近く、回折格子(グレーティング)のように虹色に光る構造色も観察されています。

また薄膜に留まらず、高分子と無機結晶が複合した3次元複合体にすることで、しなやかで硬い材料が可能になります。そして、骨や歯のバンソウコウなどの生体材料、フォトニック材料や構造色でのコーティングによる光学デバイスなどへの応用を目指して、さらなる研究が進められているのです。

西村達也 助教

東京大学 大学院工学系研究科

小さな変化を楽しみながら実験を展開
学生時代は、らせん高分子の巻き方向を制御する研究をしていました。その頃に、現在所属している研究室の加藤隆史教授の講演を聴き、バイオミネラルはとても複雑で美しい構造体で、人類はいまだ真似できていないという話しに、非常に興味を引かれました。研究室に入ってからザリガニの外骨格の形成機構や模倣材料の研究に携わりましたが、人間には容易に真似のできないことだと実感し、その素晴らしさに大いに感銘を受けました。 研究を進めるにあたっては、ちょっとした変化を見過ごさず、その変化を学生さんたちと一緒に楽しみながら実験を行っています。たとえば、少しの温度の変化で結晶の成長方向が変わることもあります。なぜそうなったのかを突き詰めていき、濃度や温度などのちょっとした条件を変えてみることで、思いがけない結果を得ることもあるんですよ。

トピックス
エビやカニなどの甲殻類の外骨格は、キチン(多糖)とタンパク質、そして炭酸カルシウムでできています。繊維状のキチンが平行に積層し、その隙間をタンパク質が取り囲んでおり、そこを足がかりにして炭酸カルシウムの結晶が成長していきます。研究室では、アメリカザリガニから抽出したタンパク質を用いる共同研究も行っていますが、その他にも実験室で合成した液晶キチン誘導体の配向フィルムを用いる研究も行われており、キチン主鎖の配列にそった棒状の炭酸カルシウムが得られることが実証されています。 たとえば貝殻の真珠層の場合は、通常、約95%の炭酸カルシウムと数%程度のタンパク質からなる複合材料です。一方、アメリカザリガニは、50%の炭酸カルシウムにキチンとタンパク質からなる有機高分子が50%という配合です。有機成分が多い分、甲殻類の外骨格は、貝殻の真珠層より柔軟で、軽く、強靭な性質を示すのです。
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