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自然に学ぶ研究事例

第138回木材に学ぶナノファイバー・エアロゲルの開発
材料・デバイス開発
植物資源
無色透明で丈夫なエアロゲルをつくる
高断熱性、防音性、吸着性などを有する高機能材料として、 多方面への応用研究が進められているエアロゲル。 微細なセルロース繊維が基本骨格を形成する多孔質体、 木材に学ぶナノファイバー・エアロゲルの開発とは?
セルロースナノファイバー・エアロゲルと木材の細胞
セルロースナノファイバー・エアロゲルと木材の細胞

木材の細胞断面にはたくさんの孔が開いており、横から見るとセルロースのナノ繊維がきれいに並んで1つ1つの孔を形成していることがわかる(円内顕微鏡写真)。左上の写真が開発したCNFエアロゲルで、大きさは約2cm角。青く見えるのは光の散乱によるもので、実物は無色透明である。下段の2枚の顕微鏡写真はエアロゲルの断面を撮影したもので、左斜め下から右斜め上にCNFがきれいに配向しているのが観察できる。右側の写真は、左側の約6倍率で観察したもの。

エアロゲルは多孔質で低密度な乾燥ゲルの総称で、シリカ、カーボン、金属酸化物、ポリマーなどさまざまな物質からつくられます。体積の90%以上を占める隙間に、空気や水をはじめとする多様な物質を含有することができるため、断熱材、防音材、吸着材、分離材、触媒の担体などへの応用研究が、世界的に活発に行われているのです。

代表的なものとして、シリカ・エアロゲルがあります。他の材料にない無色透明性が大きな特徴で光を透過することから、たとえば窓に断熱材として利用することで、熱損失の低減や防音効果を飛躍的に高めることなどが期待されています。ところが、ガラスの粒子同士がファンデルワールス力という弱い力で凝集しているだけなので非常に脆(もろ)くて扱いにくいため、実用化には至っていません。

そして現在、この欠点を克服し、無色透明も実現した新しい材料として注目されているのが、セルロースナノファイバー(CNF)を原料とするエアロゲルです。CNFは木材の主要成分であるセルロースをナノサイズの幅に分離した結晶性超微細繊維です。木材は自然界で最も代表的な多孔体であり、しかも強靱(きょうじん)です。木材の構造に改めて着目し、自己組織化を利用した合成法により、世界で初めてCNFエアロゲルの開発に成功したのです。シリカゲルは溶液中で熱を加えてつくりますが、CNFエアロゲルは水中で常温常圧でつくることができ、生産にかかる時間を大幅に削減できることも大きな利点と言えます。

熱伝導性、強度、圧縮特性、振動耐性などの試験では、いずれも高い機能性を示す結果が出ています。また、押しつぶしても、曲げても割れることはありません。吸収させた水分を絞ることが可能で、ひも状のものをつくることができるのも特徴の1つです。昔から、構造材、紙、衣料品などへ利用されてきた木材を高機能化することで、世界に豊富に存在する再生可能な資源の有効利用が図れると、その実用化が期待されています。

齋藤継之 准教授

東京大学大学院 農学生命科学研究科

木材の可能性を伝えていきたい
私たちは、もともと木材の繊維成分(紙の原料)を化学的に改質する研究をしていましたが、その繊維成分から幅約3nmのセルロースナノファイバー(CNF)をつくることに、世界で初めて成功しています。そして、分散させたCNFを合成して多孔体に戻せば、丈夫なエアロゲルができるのはないかと考えたのが、この研究を始めるキッカケでした。 木材科学はもう完成した領域だと考えられがちです。しかし、強い、軽い、暖かいという特性も含めて木材だから発揮できる性能というものがあり、その新しい可能性を調べるというのが、私たちの研究室の基本的な考え方です。CNFの応用研究は、日本でも国家プロジェクトとして動き出しており、私たちも参加しています。これからも、さまざまな研究を通して、木材が持つ素晴らしい可能性を広く社会に伝えていきたいと考えています。

トピックス
今回、エアロゲルの材料とされたセルロースナノファイバー(CNF)は、次世代産業を支える環境に優しいマテリアルとして注目されているものです。鋼鉄の5分の1の比重で5倍の強さという軽量、高強度が特徴の1つです。また、熱による変形も小さいことからプラスチックの補強用繊維用、包装やコーティング、衛生・吸収製品ほか、さまざまな分野で実用化が進められています。齋藤准教授が所属する研究室では、CNFを生産する新しい方法を開発して、注目されているのです。これまで、セルロースをナノレベルまで分離するためには、膨大なエネルギーと化学薬品が必要でした。齋藤さんらが開発したプロセスでは、ある酸化反応を利用することで生産に必要なエネルギーを20分の1にすることに成功しています。この功績により、2015年、森のノーベル賞と呼ばれる、スウェーデンのマルクス・ヴァレンベリ賞を日本人で始めて受賞しています。
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