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自然に学ぶ研究事例

第143回育水に学ぶ降雨浸透モニタリングシステムの開発
エネルギー・環境技術
自然のメカニズム
雨水の土中浸透量をセンサで観測
地表から蒸発し、雨水となって循環する水は、幾多の命を 育む大切な恵みである一方、時として大災害の要因ともなる。 地中の水分量から、地下水の挙動を評価する、 育水に学ぶ降雨浸透モニタリングシステムの開発とは?
山林における降雨浸透モニタリング実験
山林における降雨浸透モニタリング実験

草が生えた場所と草が生えていない場所での雨水の浸透差を観測する実験を実施。長さ1mのパイプに5つのセンサチップを貼り付けて地中に埋め、異なる深度で水分量を計測。写真左下の白いボックスには発信器が設置されており、乾電池で稼働する。ポールに小さく出っ張って見えるのが計測用センサで、小電力で2年間の長期にわたり情報を収集できる。右下の写真は山林の中の中継機ボックスで、市街地を含めて614箇所に設置され、データを基地局に送っている。

山に降る雨は土にゆっくりと浸み込むことで地下水となり(涵養:かんよう)、下方へ流れていきます。その一部は湧き水となって河川へ流れ出たり、ため池やダム湖などに溜められたりして農業用水や生活用水などに利用され、やがて蒸発して空へ戻るという循環を続けています。一方で、手入れされずに放置された山林、里山の消失、山を切り開いた宅地造成、気候変動などのさまざまな要因により、重大な土砂災害を引き起こすこともしばしばです。

そうしたなか、近年、注目されているのが、水質及び周辺環境を管理・保全して水資源の健全な循環を守る“育水”という考え方です。育水のための重要な技術の1つが、地層に浸み込む雨水量をモニタリングし、地下水の流動挙動を評価して、土砂崩れや河川の増水などを予知・検知する防災・減災システムを構築しようというものです。現在、長野県塩尻市の山林において、土中に埋め込んだセンサと無線ネットワークを利用して土中の水分量を年間を通じた経時変化で測定する実証実験が行われています。

実験開始からすでに約4年が経ち、独自開発した小型で低消費電力の半導体センサチップをはじめとする計測機器、計測手法、ネットワークシステムなどを現地測定によって最適化するという実証実験と並行して、通年の時系列データが蓄積されてきました。今後は、降雨パターンと降雨浸透量の相関性、降雨地域の環境変化が涵養水量に与える影響についての定量的な評価の構築に向けた研究が続けられていく予定です。

土中水分量から読み取った地下水の流動挙動を1つの指標とすることで、水資源循環に必要な効率的な山林と里山の保全・整備モデルが構築でき、全国的に多発している土砂災害への防災・減災対策として活用できると期待されているのです。

小松 満 准教授 岡山大学大学院環境生命科学研究科(前列右)

二川雅登 准教授 静岡大学大学院電気電子工学コース(前列左)

鈴木彦文 副センター長 准教授 信州大学 総合情報センター(後列)

専門が異なると、言語が違うことを実感
共同研究の母体となったのは、信州大学と塩尻市で行っていた、安全・安心な街づくりのためのセンサネットワークシステム構築の研究事業です。テーマの1つとして災害監視があり、無線ネットワーク構築担当(鈴木)、地盤特性評価担当(小松)、センサ開発担当(二川)という役割分担で、3大学の共同研究が2012年にスタートしました。当初は、専門が異なるとこんなにも常識が違い、使用する言語が違うのかと驚きましたが、相手がわかる言葉で説明することは、それまでにない面白い体験でもありましたね。 システムの実用化には、いろいろな課題がありますが、将来的には、ホームセンターで購入したセンサを自分の家の裏山に埋めて、住民が自分で災害を予測できる社会が実現することを夢見て研究を進めています。

トピックス
この実験で利用されているセンサ技術やネットワーク技術は、酸性度、水分量、温度などの土壌環境をリアルタイムで測定できる土壌センサの商品化へと発展しています。土壌に直接埋め込み、無線で情報を容易に得ることができるという特徴から、農業分野において作物の生産管理に生かすことも可能です。また、近年、土砂災害対策として、災害の起こりそうな斜面を監視するサービスに参入する企業も増えてきています。日本国内では、大雨や地震による土石流、地滑り、がけくずれなどの土砂災害が平均して、年に1000件くらい発生していると言われており、高度なモニタリングシステムと分析技術の開発に期待が寄せられているのです。
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