対談:ESG経営による積水化学グループのサステナビリティ

更新日:2019年9月3日

ESG経営による
積水化学グループの
サステナビリティ

積水化学グループではESGを経営のど真ん中に
新たな飛躍を目指しています。
今回、気候変動などの環境金融に深い知見を
お持ちの吉高まり氏をお迎えし、
積水化学グループの現在および今後の取り組みに
ついて対談を実施しました。

吉高 まり氏
IT企業、投資銀行勤務の後、世銀グループ国際金融公社環境技術部、国内初エコファンド立ち上げに関与。米国ミシガン大学自然資源環境大学院科学修士号取得。2000年クリーン・エネルギー・ファイナンス部(現環境戦略アドバイザリー部)立ち上げのため、三菱UFJ モルガン・スタンレー証券株式会社入社。環境金融コンサルティング業務に長年従事し、現在機関投資家、政府省庁、事業会社等にSDGsビジネス及びESG投資の領域について調査・アドバイス・講演等を実施。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科非常勤講師、環境省中央環境審議会地球環境部会臨時委員等。

積水化学に期待される役割

吉高

私が気候変動分野を中心とした環境金融コンサルティングに従事して、20年近くになりますが、気候変動に関する問題は2014年ごろを境に機関投資家からの関心が急速に高まっています。

御社は、このムーブメントが起きるずっと前の2000年ごろから環境を中心としたCSRに取り組む姿勢を明確に打ち出し、様々な施策を推進してきています。このように時代に先駆けた取り組みをしてきた背景は何でしょうか。

加藤

1999年に就任した先々代社長の大久保が「エコノミーとエコロジーの両立」を提唱したのが、きっかけです。ただ提唱前から当社の取り組みは始まっていました。古くは1964年の東京オリンピックのころ、ポリエチレン製のごみ容器「ポリペール」を発売し、当時、ごみ問題に悩む東京都において、その「ポリペール」が美化運動に貢献し、“清掃革命”とまで呼ばれました。

その後も、地面を掘り返さずに下水配管の修復ができるSPR工法や、自動車用中間膜では赤外線をカットすることで車内温度上昇を抑えてカーエアコンの効率を上げ、CO2削減につなげる遮熱中間膜、安全性向上に役立つヘッド・アップ・ディスプレイ用中間膜など環境・社会課題を解決する製品を開発・上市してきました。

事業を通じた社会への貢献は、もはや我々のDNAというべきものになっているのだと思います。我々はほとんど原料を持っていないので、加工で機能性を付与し、付加価値をつける。それが社会課題の解決につながり、評価されて事業が大きくなり、収益にもつながる。社会課題の解決が持続的な成長につながるという認識を最近、特に深めています。

吉高

近年、ESG投資で、成長性を財務以外の価値で評価しようという世界的な潮流があります。事業を通じて課題を解決することで成長し、収益につなげているのは素晴らしいことだと思います。

加藤

我々がESGをより意識しているのは、当社の海外機関投資家の株主構成比率が東京証券取引所の上場企業平均よりも、10ポイント程高いことも関係しているのかもしれません。海外機関投資家訪問を年に数回行っていますが、その対話の中で、現在盛んになっているESG視点での質問や提案を受けるケースが以前から多くありました。

吉高

今では多くの企業がESG経営に取り組まれていますが、御社は企業としての役割をどう考えていらっしゃいますか。

加藤

製造業に所属している立場なので、新しい製品や技術革新を通じて、環境・社会課題を解決する責任と機会があると考えています。この課題はお客様や社会からの要請であり、我々はそれに対して付加価値の高い製品を提供し、応えていく。

環境・社会課題の解決に大きく貢献する製品を「環境貢献製品」と定義して、その拡大と創出を推進しています。我々は環境重視の経営を続けてきたので、それに関する技術・人材、お客様との取り組みという財産があります。それを活かして課題解決につなげていく。我々の持続的な成長・業容拡大と社会課題の解決は両立できると考えています。

また近年様々な形でメディアにも取り上げられているプラスチックの海洋ごみ問題の解決にも貢献していきたいと考えています。

ESG経営について

吉高

今、投資家が欲しいESGに関する情報というのは、企業が倫理としてやらなければならない「守り」の情報だけではなく、ESGに取り組むことでどのように成長していけるかというような「攻め」の情報です。

ほとんどの会社が、環境貢献に対する貢献度や収益インパクトを明確に打ち出していない現状ですが、御社の場合はいかがでしょうか。

加藤

例えば、当社は「環境貢献製品」の売上目標などを開示しています。すべての製品が「環境貢献製品」と言いたいところですが、これは外部の有識者の方の客観的な評価をいただいて、順次登録しているところです。その比率が上がっていくと、社員にも社会貢献による成長がわかりやすい。そういう意味でもいずれはすべての製品が「環境貢献製品」と言えるようにしたいと思います。その結果としてESGを推進して持続的に会社を成長させるということに誇りを持つ社員が増えてくるのではないかと思っています。

また「自然資本のリターン率」として企業活動全体による自然への貢献度を算出し、総合指標として公開しています。生産プロセスを含めた企業活動の全てが環境に対してどれくらい負荷をかけ、どの程度貢献につなげられているかを社会に示していくことで、我々の企業姿勢を確認していただけると考えています。

吉高

年に150社以上の経営層の方とお話ししますが、ESGを意識した経営はいまや不可避と言えますので、どう打ち出していくかをみなさん悩んでいらっしゃいます。課題を解決して収益を上げていくとはなかなか言えない。御社にはリーダー的な役割を果たしていただきたいと思います。

私は大学で教えていますが、学生たちは例えば研究している技術が何の役に立つかわからずにただ研究しているのと、目的がわかって研究するのとではモチベーションがまったく違うと言います。加藤様もそういった経験をお持ちですか。

加藤

私は長らく自動車用中間膜に係わってきました。中間膜に遮音、遮熱などの付加機能をつけ、他社との差別化を図ることで、競争力を生み出しました。同時にそれが社会課題解決につながり、結果として事業が拡大した。自分たちのやっていることが会社の成長につながっているという認識がやりがいを与えてくれました。

今年の創立記念日に「我々の仕事そのものがESGであり、特に社会課題解決=SDGsにつながる、それがまず大事だ」というメッセージを社員全員に送りました。

実際にやっていることを外部へ訴求するのは我々が進めるので、現場でも、よりESGを意識した取り組みを推進してくれと。このような動きは、現社長の髙下が社長に就任してからより顕著になっています。2019年度のスローガンを「SHIFT to “Next Stage” ESGを経営のど真ん中に、新たな飛躍を目指す」としたのもその一つですし、組織としては4月にESG経営推進部を発足させました。CSR経営だけではなく、成長を意識したESG経営というものを明確化して、さらに力を入れていこうと考えています。

社内の意識が変わり、我々がやっている仕事、あるいは製品がダイレクトにESGにつながるという納得感が出てくれば、次世代の開発のテーマも含めて、社内の推進力が増すだろうと思っています。

中期経営計画および長期ビジョン

加藤

来年度から次期中期経営計画がスタートしますが、それに加えて2030年に向けた長期ビジョンを公表予定で、現在、策定中です。

そこでは、単なる売上や利益などの財務情報に関する目標だけでなく、ESGに関連する非財務のKPIが重要になってくると考えています。財務と非財務の情報を結びつけることで、当社が今後ESGに貢献しながら業容拡大を図るというわかりやすいイメージと強い意志を訴求しようと考えています。

吉高

年金基金のような長期視点の投資家は、これからどのように会社が進化していくかというストーリーや経営者の方の意思を非常に重視します。例えば、2030年にはどういった製品が「環境貢献製品」となり、これだけの売り上げになる、とアピールしていただければ、御社のやっていることはESG経営そのものだと誰でもわかるストーリーになります。

加藤

長期ビジョンが目指す2030年は、これから10年先のことでこれは中期経営計画でほぼ3回分に相当します。今までの中計では、1年ごとの売り上げや利益を積み上げて、算出していましたが、今回は長期ビジョンを示した上で、そこからバックキャスティングして、いつまでにはこの程度のことができていないといけないという思考で計画を策定しています。毎年の利益計画だけでなく、その先に向けた仕込みの技術開発なども、明確にマイルストーンを出せるのではないかと期待しています。

吉高

まさに今そういう長期思考のストーリーを投資家も求めているし、将来を担うミレニアル世代以降の学生たちも求めています。2030年のその先まで生き残り、成長し続けられるようなビジョンや計画を持っている企業というのは優秀な若手を引き付けることができると思います。優秀な人材を得ることで、さらによい会社になっていく可能性が高まるのではないでしょうか。

気候変動問題

吉高

御社は、環境に関する2030年の長期ビジョンのインデックスを作成されていらっしゃいますが、これについてはどうお考えになっていますか。

加藤

当社では、環境に関する長期ビジョン「SEKISUI環境サステナブルビジョン2030」において、「環境貢献製品の拡大」「自然環境の保全」「環境負荷の低減」という3本柱で、使用した自然資本100に対して、どれだけリターンできたかを指標化し、推進しています。自然資本のリターン率は現中期計画のゴール2019年度の目標90%に対して、2018年度は1年前倒しで目標を達成し、92%を実現しました。

この成果は「環境貢献製品」によるリターンが大きく、付加価値の高い製品が増加してきたことを裏付けるものです。一方で、環境負荷低減では温室効果ガス(GHG)を2013年度比で2030年までに26%削減を目指していますが、2018年度は計画未達となっており、我々はM&Aも含め成長していっているので、これはかなり挑戦的な目標であると思っています。

吉高

投資家は企業に成長してほしいと考えています。ただそうするとエネルギー使用量はその分増えてしまう。それを減らすために多大なコストをかけることはマイナスではないかという考え方もありますが、企業規模が大きくなっていく中でCO2を下げることは、企業活動の効率性が上がっているという面もあるのではないでしょうか。

加藤

確かに生産効率やエネルギー使用効率はかなりよくなっていて、経済的に無駄なことではないと認識しています。GHGは排出量では計画にビハインドですが、原単位では計画以上に下がっている。

GHG削減を目的に設定した環境貢献投資枠を活用した設備更新計画は現段階ではオンラインで進んでいます。目標達成のためにエネルギーの消費や調達方法を見直していくなどの施策がさらに必要であると考えています。

吉高

こういう長期ビジョンと財務との関係性がわかると御社の成長性が理解されやすいのではないでしょうか。御社はSBT※1も取得されていますね。

加藤

先程の自然資本のリターン率において、当社の企業活動によるGHG排出量のうち約8割が上下流のサプライチェーンに起因するものなので、サプライチェーンも巻きこんだGHG削減活動を推進するため、昨年、SBT認証を取得しました。

吉高

私はCOP(気候変動の国際会議)に10年以上毎年行っていますが、最近の議題は適応に関するものが増えている。気候変動はもう起こってしまっているので、その物理的リスクにどんなビジネスの対応があり、チャンスがあるのかということに関心が高いのです。例えば災害に関する強靱なビジネスモデルですね。

加藤

まさに我々のユニット工法による「セキスイハイム」や環境・ライフラインの製品、高機能プラスチックスの豪雨に対応するクロスウェーブなどがそれにあたります。当社のユニット住宅は工場生産化率が高いため、気候変動影響による気象状況に左右されにくく、比較的工期を遵守することが可能です。クロスウェーブは地面に埋設することで、豪雨時に河川へ一気に雨水が流れ込まないように雨水量を調整する機能があり、河川の決壊やオーバーフローの抑制に寄与しています。

日本では国土強靱化予算が追加計上されていますが、こういった製品の普及によって、国内の国土強靱化だけでなく、グローバルで貢献を拡大し成長する機会があると考えています。

吉高

きちんと気候変動の適応ビジネスをやっていらっしゃって、先見の明がおありだと思います。今度、電気事業も行われるとお聞きしました。

加藤

まもなく電力の固定買取制度(FIT)が終了します。我々の太陽光発電住宅にお住まいのお客様から電力を買い取って、必要なお客様に売電したり、当社の国内生産事業所へ供給することも考えています。国内の生産事業所についてはその買い取った再生エネルギーで電気を100%賄えるようにしたいと思っています。そのために今年の株主総会で電気事業を行うために定款を変更しました。

例えば、災害が起きて停電になった際も、太陽光パネルと蓄電池を搭載しているお客様は電気が普通に使える。そういう安心・安全、防災といった意味でも貢献できると考えています。

吉高

環境に関連するテーマでは、企業はTCFD※2への対応も求められています。パリ協定の定めた2℃シナリオ以外にも複数の気温上昇シナリオがあり、企業がそれらに対して備えることが求められていますが、現状の取り組み状況はいかがですか。

加藤

2℃シナリオ、4℃シナリオそれぞれで、リスクと機会を検討しています。2℃シナリオでは、自社の排出削減に加え、当社製品が環境に与える影響を検討して、何ができるか、どのような影響があるのかをまとめています。

一方で4℃シナリオが現実化する場合は、排出削減や環境貢献というよりも、温暖化によって引き起こされる自然災害などに対して、どのように安全・安心に貢献する製品やサービスを提供していくのか、そのような視点を含めて様々なことをシミュレーションしています。

ここまでお話ししたように、我々には「環境貢献製品」があり、お客様からも環境・社会貢献に通じる付加価値で我々の製品を選んでいただいています。これからますますビジネスチャンスが大きくなってくると考えています。

  • ※1 SBT:Science Based Targetsの略称。パリ協定の採択を契機として国連グローバルコンパクトをはじめとする共同イニシアチブが提唱。SBTイニシアチブにより、企業が定めた温室効果ガス削減目標が、長期的な気候変動対策に貢献する科学的に整合した目標(SBT)であることが認定される。
  • ※2 TCFD:2015年に金融システムの安定化を図る国際的組織である金融安定理事会(FSB)により設立された気候変動関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)。気候変動が企業の財務に与える影響の分析を行い、対応に関する戦略についての情報開示を推奨している。

サーキュラーエコノミーへの挑戦とサステナブルな社会を目指して

吉高

マイクロプラスチックによる海洋汚染だけでなく、様々な形でプラスチックに対する厳しい目が向けられています。御社として、この問題に対する解決策をどのように考えていますか。

加藤

ものづくりの会社として、3Rの取り組みを深度化させていくことが重要です。そのために社会の意識とシステムを変えていく責任があると考えており、業界一丸となって取り組むべく検討を開始しています。そして今、究極のケミカルリサイクルの技術として、当社では、ごみを燃焼させてエタノールに変えるバイオリファイナリー(BR)の技術を開発しました。これは、ごみの分別を必要とせず、産出したエタノールは燃料としてだけでなく、再度プラスチックスの原料に再利用できるという非常に優れた技術です。

現状は、実際のごみ処理場の1/10スケールのプラント稼働に着手していますが、将来的には廃プラスチックスを引き取って、エタノールにすることで、廃プラスチック問題の解決に大きく貢献できる可能性があります。現在、資源循環型社会(サーキュラーエコノミー)ということがよく言われますが、BRこそ、サーキュラーエコノミーの実現のための切り札となり得る技術と考えています。

吉高

これまでは、環境貢献、社会課題解決によって収益を上げていくと明記しづらい日本社会の風潮がありましたが、ようやく御社のように正面から事業を通じたESGを明言する企業が現れたのは望ましい傾向です。さらには、今後期待できるBRのような技術もお持ちになっているということでますます期待が高まります。

そのような企業が投資家に評価されれば、これまで外部不経済だった環境への取り組みを市場に内在化できるようになると思います。その結果、市場メカニズムにもとづいて、ESGの取り組みがより活性化し、社会課題の解決が大きく進展するという未来が見えます。その先陣を切る意味でも、今まで以上にこの分野で成長していかれることを期待しています。

加藤

我々は、ESGというのが会社の持続的な成長の原動力だと認識していますが、本日の対談でその認識は間違っていなかったと確信しました。努力を続けてまいりますので、引き続きのご支援、ご助言をお願いしたいと思います。