自然に学ぶ研究事例
第78回 最終回 | アポトーシスに学ぶまちづくり |
ドイツのベルリンで行われた、減築の事例。人口の激減と住宅の過剰供給により空き住宅が増加したまちは、活気がなくなり、安全性なども問題化する。ここでは、高層マンション(写真上)を中低層(写真下)にカットし、あわせて緑化やオープンスペースの質を向上させ、まちに活気を取り戻すことに成功した。
私たちの体には、アポトーシス(プログラムされた細胞死)という機能が備わっています。“細胞の自然死”とも言われますが、たとえばガン化した細胞など身体に不要な細胞は除去され、体内で日々つくられる膨大な数の細胞に見合った数の細胞が自滅することで細胞交代が正常に行われています。あるいは、オタマジャクシがカエルに変態するときに不要となるシッポがなくなることもアポトーシスによるものです。アポトーシスは、身体を管理し、健全で最適な状態に保つために欠くことのできないメカニズムなのです。
そして、私たちが暮らす“まち”は、巨大な生命体に例えることができます。家やビルなどの建造物を細胞、交通システムやさまざまなインフラを循環器として見ると、それぞれが健全に保たれ、バランス良く機能しなければ、人が病気になるように、まちも衰退してくことは明らかです。中山間地域等における公共交通網の衰退が、さらなる人口流出を招き、人が住まない村をつくり出していることも、その一例です。
高度成長期以降、日本の“まち”は拡大成長を続けてきました。ところが、高齢化社会、人口の減少、経済の縮小、低炭素化への対応など、さまざまな問題から、近年、コンパクトなまちづくりが求められるようになっています。必要な機能を備えながら環境負荷が小さく、質の高い暮らしを可能にするコンパクトシティ。そこで注目したのが、アポトーシスの仕組みでした。都市や地域を健全にするために、まちづくりにも計画された細胞死が必要だと考えたのです。
老朽化した建物、シャッターが閉まった商店街、役割を終えた施設。山積みする課題の中で、これからの街づくりはどうあるべきなのか。そこには、縮小のプロセスを組み込む必要も出てくるでしょう。たとえば、居住者が激減した高層マンションの上層階をカットする“減築”。あるいは、使われなくなった構造物などを取り壊して元の環境に戻す“ミティゲーション”。状況に応じて、さまざまな対策がありえるでしょう。もう一度、“まち”を生き物として捉え直すことで、地域に見合ったモデルづくりを進める研究が、いま行われているのです。
谷口 守 教授 筑波大学大学院 システム情報工学研究科 都市のダイエットが持続可能な社会へつながる |