自然に学ぶ研究事例
第12回 | 自然力に学ぶ景観デザイン |
自然のダイナミズムを活かすランドスケープ
洪水で変わる河川敷の植物相、枝葉が織りなす木漏れ日の光と影。
ダイナミックな自然の営みのなかに、人の手と心が寄り添った時、風景は、ビオトープを超えて、人もまた自然であることを教えてくれる。
自然のプロセス、システムに学ぶ、新しい生態系のデザインとは?
タンポポ(蒲公英/キク科タンポポ属)
[属名]Taraxacum
[属名]Taraxacum
舗装された固いアスファルトさえ断ち割って芽ぶき出すタンポポは、1mほどにもなる太い根をもち、乾燥した土壌からも水分を吸い上げることができる。都市化が進む環境の中で、ダイナミックに生き続ける自然の解釈が、新しいランドスケープを形にする。
しかし、それ以前の日本人は、園とは異なる、自然に学ぶ庭づくりの作法に気づいていました。
京都の宇治平等院。そこでは、平安時代の浄土庭園を復元しようという壮大なプロジェクトが、15年間にわたり続けられています。950年前のその庭は、周 辺の山並みと河面の朝霧、また飛来する水鳥たちを取り込み、受け入れる、環境に開かれた"庭(ば)"であり、"場"であることがわかっていました。
外部の環境や風景に開かれた、境界線のない景観デザイン。そこには、自然保護を目的とした環境林整備や省エネルギーを図る都市の屋上緑化、また生態系を人 工的に造成するビオトープづくりとは、大きく異なるデザイン思想がたたえられています。人間が手を加えていない"ありのままの自然"、田畑や里山のように "人が創造したしぜん"、そして過酷な人工環境のなかからも立ち上がってくる"力強い第3のシゼン"が、同じ自然である人の手によって、その共生と共存が デザインされていたのです。
都市の中で育まれる公園のような人工的なしぜんには、ありのままの自然には見られない、人の営みに調和した美しさがあります。また、使われなくなった工場 や倉庫跡、放置された埋立地などに立ち現れ、ダイナミックに変化するシゼンには、不安定であるが故の、安定した自然には見られない活力があります。もちろ ん、他ならぬ自然の中でのみ出会うことのできる植物や動物に感動を覚えることもあるでしょう。
自然、しぜん、シゼン。この3つの自然をランドスケープとしてデザインするためには、自然の機能を理解し、時と季節がもたらすそのダイナミックな変化を考 慮し、そこに接する人々の感情や生理を学ぶことが必要です。3つの自然がモザイク模様を描き出すような"プロセス・システム・ネットワーク"をコントロー ルすることで産み出された街が、私たちにとって理想の環境と呼べるのかも知れません。
宮城 俊作 ランドスケープ・デザイナー 奈良女子大学生活環境学部教授
形態のデザインから様相のデザインを目指して |
ビオトープとは、生き物(Bio)がありのままに生息活動する場所(Top)という意味の合成されたドイツ語が由来となっています。1970年代、生き物が住みにくい都市部などで、自然が自ら再生できるように人間が少し手助けしようとする運動がドイツで始まりました。最近では、ビオトープをつくる活動が活発化しており、各地で盛んに行われています。しかし、わざわざ雑木林や雑草地を改変したビオトープづくりや、人間の価値観による公園づくりなどが行われることもあり、これでは、本来のビオトープとは正反対の行為となってしまいます。
まず、自然をつくりあげている土や水、大気や太陽、生物などのさまざまな要素のことを知ること。そして、本来ある大きな自然の仕組みとのつながり、それぞれの場所に潜む特性を理解して上手に引き出してあげることによってのみ、本来の自然の美しさ、命の恵みを再現することができるのです。