自然に学ぶ研究事例
第39回 最終回 | 天然の結晶成長に学ぶ機能性材料 |
本来の形は菱面体(ひし形の多面体、写真中央)だが、育成条件を制御することで、形状やサイズを変えることができる。写真上は、ウニの針のように成長したウィスカーと呼ばれる単結晶。写真下は、植物の呼吸により根から放出される物質の影響で球状になった単結晶。形状やサイズによって機能の発現、用途も違ってくる。
原子やイオンが規則正しく並び、どの部分を切り出しても配列の方向がまったく同じ構造をもつ単結晶は、物質が本来もっている特性を最大限に発揮する理想的な形といわれます。骨の主成分である水酸アパタイト、貝殻やサンゴをつくる炭酸カルシウム、ダイヤモンドやルビーなどの宝石類。電子材料、触媒、有害物質の吸着剤などとして工業利用されているさまざまな単結晶を、いかに環境に負荷をかけずにつくるかという研究が注目されています。
単結晶育成方法の1つがゲル法と呼ばれるもので、貝殻などの結晶構造が海中で成長していくモデルを試験管内で実現する方法です。反応溶液中のイオンを拡散させ、寒天などのゲル内部に閉じこめた別の反応溶液にゆっくりと浸透させていくとイオン同士がくっついて結晶核が発生し、キレイな単結晶が析出するのです。そして、イオン濃度などを制御することで、放射状やシート状など、多様な形の結晶をつくることもできます。
炭酸カルシウムの単結晶は本来、ひし形の多面体ですが、発芽した植物をゲルの上に載せておくと、植物が呼吸したときに根から放出されるタンパク質などの影響で、球状になることも確認されました。これは、表面の特異形状を利用した有害物質の吸着剤としての活用が期待されます。
地核での結晶成長の仕組みをまねた“ネイチャーミメティック・フラックス法”では、食塩を溶媒とするアパタイトの創成に世界で初めて成功しました。また、従来は2000℃以上に加熱しないとできなかった人工ルビーを、半分の温度でつくる方法も見出したのです。酸化チタンと同様の光触媒機能をもった酸化物単結晶も開発され、環境浄化材、太陽電池セルへの応用研究も始まっています。エネルギーや原料の消費を最小に抑え、自然の力を借りながら、高品質な材料をつくる取り組みは、材料生産の未来を変えて行くに違いありません。
手嶋勝弥 助教 信州大学 工学部環境機能工学科 基板上で小さな生物が働く工場を・・・ |