自然に学ぶ研究事例
第41回 最終回 | 光合成に学ぶエネルギー生産 |
デンドリマーは、樹状サンゴのように枝分かれをくり返して球状に広がっていく分子。デンドリマーにフラーレンを結合して成長させていくことで、フラーレンの3次元組織化を図った。写真は原子間力顕微鏡で撮影。左上から下に、フラーレン1個、2個、右上から下に、4個、8個、16個が、1個のデンドリマーにそれぞれ結合している。フラーレン同士が近づくことによって、電極への電子の輸送効率が高まることが確認された。
クリーンエネルギーの旗手として、期待が集まる太陽光発電。現在は、シリコンなどの無機系太陽電池がおもに使われていますが、コストやシリコン資源の制約などから、色素増感型やバルクヘテロ接合型と呼ばれる有機太陽電池の実用化が切望されています。ところが、そのエネルギー変換効率は、最大でもシリコン系の半分以下。光合成に学び、エネルギー変換効率を大幅に上げる革新的な技術を確立しようと、さまざまな挑戦が始まっています。
植物はクロロフィルという色素によって光を集め、放出した電子を別のクロロフィルや有機分子(アクセプター)に次々とリレーのように渡していくことで、光のエネルギーを化学エネルギーへと変換しています。この仕組みをまねた人工光合成としては、クロロフィルと同じ働きをするポルフィリンという色素を利用する方法が、これまでに研究されてきました。
近年、ユニークな例として注目を浴びたのは、ポルフィリンと組み合わせて、電子を受け取って電極に送るためのアクセプターとしてフラーレンを使うというものです。フラーレンは、炭素原子がサッカーボールのような形に結合したもので、電子を受け取りやすい性質があります。ポルフィリンとフラーレンを連結させた分子を合成して光を当てると、ポルフィリン上で電子が放出され、フラーレンに引き寄せられることが確認できました。そして、デンドリマーという樹状分子を利用して、フラーレンの分子配列を3次元的に制御することで、電子の輸送効率が大きくアップすることも実証されています。
さらに、新しい機能性分子の設計、電極上での膜構造の制御など、多様なアプローチにより高効率で低コストな人工光合成システムの開発が進められているのです。これらの研究は、新しいタイプの太陽電池を生み出すだけでなく、極薄型の有機トランジスタなど、電子機器の小型化・高性能化にも大きく貢献するに違いありません。
今堀 博 教授 京都大学大学院 工学研究科 領域を超えた知の蓄積から新しい機能が生まれる |