自然に学ぶ研究事例
第43回 最終回 | ローマコンクリートに学ぶ建設材料 |
ソンマ・ヴェスヴィアーナ遺跡から発掘された古代コンクリート。火山灰に消石灰、レンガや凝灰岩など、近隣にある天然材料を巧みに利用してつくられたもので、表層と内面の構造に工夫をこらした後が伺える(写真左)。昨年、200キログラムの大きなサンプル(写真右)も入手し、3層でつくられていることもわかってきた
道路や高架橋、トンネル、ダムなどのインフラをはじめ、ビル建設など、現代に欠かせない建設材料となっているコンクリート。一般的にコンクリートは、セメントに水を加え、骨材として砂や小石などを混ぜてつくられます。そのルーツは、古代ローマにあると言われ、コロッセオ(円形闘技場)、カラカラ浴場、水道橋などさまざまな構造物が、1000年、2000年という時を経て、いまに残されています。
現在、発掘が進められているナポリ近郊のソンマ・ヴェスヴィアーナ遺跡では、地中に1500年以上埋もれていたと推定されるコンクリートの塊が発掘され、その耐久性の秘密を探る研究が進められています。これまでに、火山灰(ポゾラン)に石灰や消石灰を混ぜたセメントを使っていることが確認されました。また、内部には骨材として大きめの石を入れ、表層部は細かく粉砕したレンガなどを混ぜて緻密な防水層をつくるなど、その構造にも工夫があることがわかりました。これは、現在のダムコンクリートなどの大型構造物の構築製法に酷似しており、かなり高度な建設技術をもっていたことが推測されます。
さらに注目されたのは、固まったセメント部から、カルサイトと呼ばれる、難溶性の炭酸カルシウムが大量に検出されたことです。このことから、大気中や土中の炭酸ガス(CO2)を吸収して材料が炭酸化したことで、数千年という時を残ってきたと考えられるのです。コンクリートの炭酸化が進むと内部の鉄などは錆びるため、鉄筋コンクリート構造物には不向きですが、古代コンクリートの研究を活かし、表層だけを炭酸化させて耐久性を高める方法なども提案され始めています。CO2を固定化させた新建材が広く利用されるようになれば、温室効果ガス削減に大きく寄与するのではないでしょうか?
長期耐久性コンクリート研究には、使用する環境の違いなど課題がまだまだ残されています。しかし、一般建造物の長寿命化だけでなく、将来的には、放射性廃棄物の埋設という視点からも、新しい材料開発への展開が大いに期待されているのです。
坂井 悦郎 教授 東京工業大学大学院 理工学研究科 建設と環境を科学し、社会環境材料を開発 |