自然に学ぶ研究事例
第55回 最終回 | タンパク質に学ぶ機能性金属錯体の設計 |
タンパク質は正しく折り畳まれないと目的とする構造ができずに機能も発現しない。写真は、タンパク質のフォールディングのイメージとさまざまな“生き物”の形に畳まれた折り紙。
生物の体を形づくるタンパク質は細胞をつくり運動を司るだけでなく、物質の生産や分解、運搬、情報伝達、生体防御、遺伝子調節、光や匂いや味を感じる受容体など、さまざまな役割を担い生命活動を支えています。そうした機能は、タンパク質を構成するアミノ酸の配列が、フォールディング(折り畳み)によって特定の立体構造をとることで発現します。人工的にタンパク質を合成する手法も開発されていますが、フォールディングの制御には未だ成功していません。そこで注目されてきたのが、ペプチドを利用した立体構造の制御です。
タンパク質と同じ構造でアミノ酸の鎖が残基数100程度以下と短く、分子量1万以下のものが、一般にペプチドと呼ばれています。人工タンパク質をまったく新たに設計するデノボデザインとしては、二次構造をとりやすいペプチドどうしを結合させる方法と、20種類の標準アミノ酸以外の非天然アミノ酸を用いて立体構造を制御する研究が行われていますが、近年、後者の方法で光機能性を有する人工タンパク質が生まれ、“ペプチド折り紙”と命名されました。
これは、金属イオンと結合しやすい化合物(配位子)となる非天然アミノ酸を作製し、ペプチドに導入することで金属と配位子を反応させ、折り畳みを制御して特定の立体構造を実現しようとするものです。金属と他の物質が結び付くと金属錯体が合成されますが、この方法では、折り畳んだときに金属が有する磁性や電導性、発光といった特性を付加できるという相乗効果もあります。
発光性を示すルテニウム錯体をコアに持つ人工タンパク質が、動物細胞内でリン光発光する様子なども、すでに確認されています。“ペプチド折り紙”の研究はまだ緒についたばかりですが、ペプチド鎖による分子認識や触媒活性などの機能とさまざまな金属錯体の特性を併せ持つ高機能分子の設計へ道を拓くものと、国内外から注目されているのです。
石田 斉 准教授 北里大学大学院 理学研究科 人工光合成の実現に向けた高機能材料の開発 |