自然に学ぶ研究事例
第68回 最終回 | 白色腐朽菌に学ぶバイオマス活用 |
木材中のリグニンを分解し、木材を白く変色させることからこの名前がついた。シイタケ、ヒラタケ、マイタケ、エリンギほか、多くのキノコも白色腐朽菌の仲間である。写真上は、森に自生するサルノコシカケ科のカワラタケ。写真下は木粉の変化を観察したもので、白色腐朽菌を接種するとリグニンの分解が進み、色が茶色(右)から白く(左)変わっていく。
脱石油、二酸化炭素の排出削減を目的に、とうもろこしやサトウキビなど、でんぷんを原料とするバイオエタノールの生産が、世界的に進展しています。しかし、食料植物を原料とすることから食品や飼料の価格にも影響を与え、畑の開墾による森林の喪失などが問題となっているのです。そこで、地球上に大量に存在する非食料植物に注目し、それを有効活用しようという研究がさまざまに行われています。間伐材や廃材などからセルロースを取りだし、糖に分解してバイオエタノールをつくろうというのです。
木材には、非常に分解が困難なリグニンという高分子が含まれており、セルロースを利用するためには、まずリグニンを分解しなければなりません。そのため、高温・高圧下で酸やアルカリなどの薬品を利用するといった、非常に環境負荷が高い方法が取られているのが現状です。一方、自然界では、白色腐朽菌と呼ばれる微生物たちが常温・常圧でリグニンを分解し、木材を腐らせています。しかし、それを産業利用するためには、分解効率を大幅にアップし、時間も大きく短縮しなければなりません。その課題を解決するために、高活性な分解菌の探査が活発に行われて来ました。
すでに、一般的に用いられている白色腐朽菌のリグニン分解能の2倍程度の能力を示す高活性リグニン分解菌が発見され、2種類のリグニン分解酵素が特定されています。そして、その酵素遺伝子を強発現させた菌株を育種することで、野生株の2倍程度の能力をもたせる研究が進められているのです。
このリグニン分解菌は、ダイオキシンなどの環境汚染物質分解能を有することもわかりました。そのメカニズムを活かした、環境修復(バイオレメディエーション)の研究や、植物を活用する環境修復(ファイトレメディエーション)への応用研究なども行われています。微生物の力を借りた、環境負荷のないエネルギー生産や環境保全技術が、近い将来、実現すると期待されているのです。
平井浩文 准教授 静岡大学農学部 応用生物化学科 微生物でバイオエタノール生産を実現する |