自然に学ぶ研究事例
第70回 最終回 | 葉緑素に学ぶ光機能性材料の創製 |
天然の光合成反応中心には2つのクロロフィルがスペシャルペアを構成し、それが9つ集まって環状体を形成して効率よく光を集めている。写真は葉の葉緑体が光を捕集するイメージ写真である。
通常、物質に光をあてると、物質内の電子がある決まった波長の光子(フォトン)を1つ吸収し、エネルギーが安定的な状態から高エネルギー(励起・れいき)状態へと移ります。ところが、レンズで焦点を絞って強いレーザー光をあてると、一光子吸収の時の約2倍の波長(エネルギーは半分)の光子が同時に2つ吸収される、二光子吸収が起こります。一光子吸収は物質の表面でのみ起こりますが、波長が長い二光子吸収は物質の表面を透過します。そのため、内部の特定する部位に焦点をあて、その周辺の限られた範囲で励起状態を起こすことが可能です。焦点を移すことで、階層的に励起状態をつくりだせるのです。
こうした光の吸収による励起状態は、たとえば、光ディスクへの情報の書き込みなどに利用されますが、二光子吸収で多層構造を持たせることで、記録容量を飛躍的に増大することができるのです。そして、高密度三次元光メモリー、超高速通信用光スイッチ、体の深部のガン細胞だけを狙って治療する光線力学療法(PDT)などを実現するために、二光子吸収能の高い材料の開発が進められています。いかに二光子吸収効率を上げるか…。そこで注目したのが、光合成を行う天然のクロロフィル(葉緑素)の色素配列だったのです。
光合成の光捕集系色素配列は、2つのクロロフィルがペアを組み、それが集まって輪のような環状体を形成しています。この配列をクロロフィルと似た性質をもつポルフィリンを使い人工的に再現したところ、従来に比べて二光子吸収効率を4倍以上に増大させることに成功しました。
現在、実用化を目指してさらなる高効率化、材料としての耐久性の検討などが進められています。次世代型の大容量光デバイスや、メスや抗ガン剤を使わないため副作用もなく体への負荷が少ない深部ガンの治療が、そう遠くない未来に実現すると期待されているのです。
小川和也 准教授 山梨大学大学院 医学工学総合研究部 社会に役立つ夢の材料をつくる |