自然に学ぶ研究事例
第77回 最終回 | 生物のサテライト行動に学ぶネットワーク制御 |
身体の小さなオスのカエルは、近くに大きなオスがいると自ら鳴くことを止め、メスが寄ってくるのをじっと待つ、サテライト行動をとる。自らが発声してメスを獲得するメリットと、発声による体力の損失を比較して、よりメリットが大きい方の行動を選択していると考えられている。写真はイメージ。
複数のセンサ付無線端末(ノード)をさまざまな物に取り付けて情報収集を行うセンサネットワークは、人や物、環境などのモニタリング、エネルギー管理、防犯、健康管理など多様な分野で利用され始めています。無線通信は障害物などで通信環境が変動し、大規模になるとノードの数も多量となり、全体を集中制御することが難しくなります。また、ノードの移動や増減などが生じた場合も機能しつづける必要があることなどから、自律分散的な方法で制御されるようになっています。近くにあるノード同士が作用し合い、バケツリレーのように情報を伝達して1カ所に集めているのです。
ノードは電池で作動しており、1つのノードの電池がゼロになるとネットワーク自体が止まってしまいます。そのため、個々の電池を長持ちさせることが課題の1つです。そこで注目したのが、カエルやコオロギなどが鳴き声によってメスを惹きつけるときの、サテライト行動と呼ばれるものです。自分よりも身体の大きなオスが側にいたり、周辺の個体密度が高いことを検知すると、身体の小さなオスは鳴くことを止め、他のオスの鳴き声に寄ってきたメスを獲得するという体力温存戦略をとるのです。
電池の残量を“体力”になぞらえ、残量の少ないノードは休み、残量の多いノードを働かせることで消費電力のバランスをとり、電池寿命を延ばそうという考え方です。そのために、周辺のノード同士が電池の状態に関する情報交換を定期的に行い、どのルートで通信するか決定する、自己組織的な制御方法が開発されました。シミュレーションでは、従来比1.5倍のネットワーク寿命が確認されています。
また、カエルがタイミングをずらして鳴くことに着目し、それを数学的にモデル化してデータ送信のタイミングをずらす手法に利用しようという研究も行われています。こうした生物の知恵を応用したセンサネットワークは、現在、実用化に向けたシステム研究が進められています。端末同士が互いに制御し合うことで、通信環境の変化にも強く、大規模なネットワークへの応用が期待されているのです。
菅野正嗣 教授 大阪府立大学 総合リハビリテーション学部 理論と社会的実践を両立させる研究を |