自然に学ぶ研究事例
第86回 最終回 | 微生物に学ぶエネルギー生産 |
シュワネラ菌は代表的な電流発生菌の1つで、深海の海底火山の近くから採取された。中央の顕微鏡写真は、酸化鉄コロイドを加えた系で電極に付着したシュワネラ菌を撮影したもので、右が1万倍、左が10万倍。背景の水田はイメージ。
クリーンエネルギーの旗手として期待される太陽光発電は、さまざまな研究が世界中で行われていますが、最近、非常にユニークな研究として注目を集めているのが、“微生物太陽電池”と“微生物燃料電池”の開発です。植物や光合成する能力を持った微生物と、有機物を分解して電子を放出する能力を持ったシュワネラ菌などの微生物(電流発生菌)を組み合わせて発電させようというのです。
多くの微生物は、細胞内に取り込んだ有機物が持つ電子エネルギーを増殖や、自らが生きるために利用しています。中には、まだエネルギーが残っている段階で体外に電子を放出する微生物も存在します。電子が酸素に渡されると二酸化炭素と水が生成され、二酸化炭素に渡されるとメタンが発生します。ところが、電流発生菌は電子を直接電極に渡すことができるのです。これを利用して電子を電力として取り出そうというのが、“微生物燃料電池”です。すでに実験には成功し、1日に3時間ほど電流を流さずに休ませることで、持続的に発電可能であることも明らかになっています。
また、このような電流発生菌は水田の土壌にも多く存在するので、水田に直接電極を入れて発電させる実験も行いました。すると日中、より多くの発電が見られたのです。これは、太陽の光を浴びた稲が根から有機物を排出し、それを電流発生菌が食べて電子を放出しているためだとわかりました。実験で得られた電力はごくわずかですが、水田そのものを太陽光発電装置にできる可能性が示唆されたのです。
さらに、湖沼の汚染原因となるアオコが光合成能力を持った微生物であることに着目し、それを利用する研究も行っています。湖や沼全体を太陽電池として使おうというのです。微生物に最適な環境をどう整え、発電効率をアップするかという課題はありますが、生きている発電装置がエネルギー生産の未来を大きく変えてくれるのではないでしょうか?
橋本和仁 教授 東京大学大学院 工学系研究科 自然界を上手く使い、新しい化学を創製する |