自然に学ぶ研究事例
第87回 最終回 | キノコに学ぶバイオエネルギー生産 |
森に自生するキノコの中には、特殊な発酵能を有してさまざまな物質生産を行う種が多くある。円内の写真は、カワラタケの菌糸を光学顕微鏡で撮影したもの。キノコの菌糸の特徴として、クランプ結合と呼ばれる小さなこぶ状の突起が観察される。
キノコはリグニンを分解する白色腐朽菌とセルロースを分解する褐色腐朽菌に大別されます。トウモロコシやサトウキビなどの食糧と競合しないリグノセルロース系バイオマスからのエタノール生産研究の多くは、リグニン分解酵素を前処理に利用することが検討されています。一方、国内でも5000種類あまりといわれる野生キノコの中には、一般的な微生物が苦手とする種類の糖質を直接エタノールへ変換する能力を保有しているものが存在します。
これまでの研究で、通常の酵母では発酵が難しかったキシロース(五炭糖)をはじめ、グルコース(六単糖)やでんぷんなどの多糖類を効率的に発酵可能な数種類のキノコが白色および褐色腐朽菌から見出されました。こうしたキノコの特性は、リグノセルロース以外にもさまざまなバイオマスからのエタノール生産に応用できると考えられています。
生ゴミに水だけを加え、発見したキノコの菌糸を入れて培養したところ、エタノールが効率的に直接生産可能であることが確認されました。生ゴミに含まれる糖質換算で7割以上をエタノールに変換できるのです。微生物利用の場合と比べて前処理もいらず、pH調整も不要で、外部から何も足すことなく、まさに天然のキノコパワーだけですべて完了というわけです。
国内で年間2000万トン発生する生ゴミは、見方を変えれば利用価値のあるエコロジーな資源です。一定量が排出される地区ごとに簡便な小規模発酵施設をつくることで、経済性と環境調和性を兼ね備えたエネルギー変換システムが実現することでしょう。そして現在、より発酵能の高いキノコの探索、アルコール以外の有用物質の変換研究なども進められており、エネルギーだけではない複合的な物質生産プロセスの確立が期待されます。
岡本賢治 准教授 鳥取大学大学院 工学研究科 森林から発掘した能力を資源の循環に活用 |