自然に学ぶ研究事例
第102回 | 気候に学ぶ快適なまちづくり |
横浜市の沿岸部(みなとみらい21)には、開発により高層建築が林立している。左下の写真は、横浜市(西区〜保土ヶ谷区)のある日の午後2時頃の熱画像で、特に暑いところ(濃い赤)はアスファルトに覆われたエリアである。
郊外に比べて都市部の気温が異常に高くなるヒートアイランド現象が重大な環境問題となっています。地面のほとんどがコンクリートやアスファルトで覆われ蓄熱しやすいこと、冷暖房や自動車から大量の熱が放出されること、また林立する建築物により風通しが阻害されたことなどが、その原因と言われており、深刻化しているというのです。
都市の高温化は、近年増え続ける猛暑日や熱帯夜の日数にも影響を与えており、熱中症の増加とも無縁ではないと考えられます。また、夏場の電力需要も増大させることになり、冷房を使うことでエアコンの室外機などからさらに多くの排熱を生み、それがまた気温を上昇させるという悪循環を生み出すことになっているのです。対策の1つが都市緑化事業ですが、必ずしも科学的知見に基づいた都市計画で実施されているとは言えません。
こうした状況の中、自然の気候に適合したまちづくりを実践するために、都市気候地図(クリマアトラス)を提唱する研究が注目されています。小中学校などに設置されてた百葉箱なども利用した定点観測と衛星画像などを活用して収集した温度と風向や風速のデータをマッピングし、緑の分布やまちの有り様を重ねて現況を分析することで、エリアごとに効果的な対策を考えるというものです。
作成した都市気候地図からは、優先的に緑化が必要な地区はどこなのか、風の通り道はどこにどのように確保するのが良いか、といった問題解決のポイントが導き出されます。現在、いくつかの自治体の協力を得て調査が行われています。そして、低炭素社会の実現という要請も踏まえ、省エネルギーで快適に暮らせるまちづくりに気候地図を利用しようという動きは少しずつですが、着実に広がり始めているのです。
田中貴宏 准教授 広島大学大学院 工学研究科 定量的な科学知に基づいた都市計画の手法を確立する |