自然に学ぶ研究事例
第103回 | 花炭に学ぶらせん状炭素材料の開発 |
花や木の実などの造形美を楽しむ花炭(写真上)は、酸素を遮断し蒸し焼きにすることでつくられる。写真下は合成のプロセスを示したもので、左がキラルネマチック液晶の反応場、真ん中はアセチレン重合で合成したらせん状ポリアセチレン、右はヨウ素ドープした後に加熱炭化処理したらせん状グラファイト。左の写真は偏光顕微鏡で、真ん中と右の写真は走査型電子顕微鏡で撮影したもので、ゆるくねじれた繊維が束になって、さらにらせん構造をとる階層性らせん構造を保持していることが確認できる。
金属に替わる機能性材料としてさまざまな分野で利用が進む導電性高分子。その体表的な物質に、ポリアセチレンがあります。この一次元のフィルムに高次構造をもたせることで、新たな機能を引き出そうという研究が行われています。
キラルネマチック(ねじれた)液晶(別名、コレステリック液晶)中に重合用の触媒を分散させ、その表面にアセチレンガスをゆっくり吹きつける方法で、すでに、らせん状のポリアセチレンの合成に成功しています。これに電気を通すと、コイルのようにS極、N極が生じます。一定方向にねじれたポリアセチレン鎖が束状のフィブリルを形成し、フィブリル自体もらせん状という、階層性らせん構造となっており、高い導電性を示し、ナノサイズの電磁石などへの応用が期待されています。
しかし、空気安定性が低いという欠点があるため電磁的特性は長持ちしません。そこで、高分子の炭素化が試みられました。炭素材料であるグラファイト(黒鉛)は、熱力学的・化学的に安定な物質であり、ポリアセチレンをグラファイトに変身させようと考えたのです。ところが、そのまま熱処理すると灰になってしまいます。どうすれば、らせん構造を保持したまま炭素化できるか? ヒントとなったのは、古来から飾り炭として利用されてきた花炭(はなすみ)でした。
花炭は、木や草花、実などを酸素を遮断して焼くことで元の形をきれいに保っています。また、縄を塩水につけて焼くと縄の形のまま炭になることも古くから知られています。そうした技法を参考に、試行錯誤の結果、ポリアセチレンにヨウ素ドープ(添加)する方法で、らせん状グラファイトの合成に成功したのです。この合成法の一番の特徴は、ある形状のポリマーをグラファイト化するため、ナノスケールで望む形をつくることができることです。現在、固体高分子型燃料電池の電解膜への応用なども検討されており、新しい炭素材料として注目されているのです。
赤木和夫 教授 京都大学大学院 工学研究科 夢は金属を超える超伝導高分子フィルムの開発 |