自然に学ぶ研究事例
第104回 | 海藻に学ぶ人間活動の記録 |
![]() |
|
![]() |

海藻は採取したときの海洋環境を反映しており、福島原子力発電所の事故以来、改めて含有物の研究が注目されている。写真は、コンブ科の海藻ケルプで、地球上で知られている海藻の中で最大種と言われ、50メートル以上に成長するものもある。海底の岩に付着し、海面に向かって林立する樹木のように密集して生えているところは、ケルプの森と呼ばれ、カニやウニ、ヒトデ、魚類、アザラシやラッコに至るさまざまな海洋生物の生息場となっている。おもにアラスカ半島からカリフォルニア湾にかけて多く見られるが、海水温の上昇などから消滅も危惧されている。
日本は資源がないといわれていますが、世界第2位の生産量を誇る天然資源にヨウ素があり、液晶、殺菌・防カビ剤、医薬品などに幅広く利用されています。ヨウ素は、堆積物が溜まった古海水が地下およそ1000メートル程度の地層に取り残された塩分濃度の高い地下水(かん水)中に存在しています。
地下資源の成り立ちを知る上で重要な要素が、物質の年代測定であり、安定的に存在するヨウ素127と歳月の中で半減するヨウ素129の含有比(同位体比)で、かん水層がいつごろできたのかを知ることができます。過去の海洋堆積物から導き出された初期値と比較するものですが、国内の有数な産地のヨウ素年代を測定すると5000万年という数値が導き出されました。周辺の地層年代は45万年〜250万年とされ、大きな隔たりがあることがわかったのです。このため、プレートの動きに伴ってヨウ素が他から移動してきたという説も出ていました。
しかし一方で、算定の基本とされる初期値は本当に正しいのかという疑問も生まれました。北海道大学博物館には採取年代がわかる海藻試料(コンブ)が数多く残されています。それらを計測したところ、第2次世界大戦前の試料から、過去に提唱された初期値を下回る値が出たのです。これを国内産地のヨウ素年代に当てはめると、ほぼ地層年代に合致し、移動してきたのではなく地層の中で現位置で生成されたものだと考えられるのです。また、核実験、核燃料再処理、原発事故などの時期には、人工的に放出されたヨウ素129の影響で数値が上がっていることも海藻試料から確認されました。
地下資源がいつごろ形成され、物質のサイクルはどう変化していくのか。そして、そこに人間活動はどのような足跡を残すのか。物質の年代測定は、地球の循環規模を知る重要な研究でもあるのです。
![]() |
太田朋子 助教 北海道大学 工学研究院 研究とは自ら創造する“芸術”である |
