自然に学ぶ研究事例
第112回 | DNAの構造に学ぶ機能性高分子の創製 |
5つの原子が環状に結合した五員環が右巻きに規則正しくつながって主鎖を形成し、2本の主鎖の相互作用により一方向にねじれて、らせん構造をとる。主鎖の間には、π電子を有するそれぞれの側鎖が積層し、2重らせんを安定構造にしている。π電子が積層すると導電性や、発光性・光吸収などの光学特性も示すことから、DNAは分子導線として、エレクトロニクス素子への応用研究なども行われている。
自然界には、タンパク質、セルロース、デンプン、天然ゴムなどさまざまな種類の天然高分子(生体高分子)が存在していますが、DNA(デオキシリボ核酸)もその1つです。DNAは2重らせん構造をとることが知られていますが、らせんを形成する1本の主鎖は、5つの原子が環状に結合した五員環が右巻きにつながって形成されています。上下の立体配置が規則正しく並び、2本の鎖の相互作用で一方向にねじれ、らせん構造を形づくるのです。
2本の主鎖の間には、π電子をもった側鎖が積層(スタック)されています。主鎖の五員環をつなぐ部分は親水性で、πスタック部分は疎水性という両親媒性を有しています。人工的に合成された両親媒性高分子はミセルに代表されるように、これまでのところほぼ球状であり、DNAに倣って棒状の両親媒性高分子をつくる研究が行われています。π電子がスタックされると、導電性、発光性や光の吸収能などを示すため、新しい機能性高分子ができるのではないかと考えたのです。
これまで、DNAの一部を他の物質に置き換えて人工DNAをつくる研究はありましたが、この研究はDNAのようなπスタック型高分子を1からつくるというユニークなものです。構造を単純化して炭素のみで環化重合を試みる研究から開始し、五員環の立体配置を制御した棒状のポリマーをつくることに成功しました。また、官能基(アルキル基)の導入を工夫することで、従来は炭素2つ分の間隔が限界でしたが、五員環をつなぐ間隔を自在に制御することも可能となりました。
親水性と疎水性の部分を規則的に配置した、DNAの基本骨格に少しずつですが近づいてきており、らせんを巻く可能性も見えてきました。そう遠くない将来、1からつくったDNA様の新しい高分子が生まれると期待されています。
竹内大介 准教授 東京工業大学 資源化学研究所 天然の構造を真似て、天然にない機能を出す |