自然に学ぶ研究事例
第119回 | タンパク質の機能に学ぶウイルス耐性植物の創出 |
左端のものはウイルスを接種していない野生種で、左から2番目はウイルスを接種した野生種。右側の2つは人工DNA結合タンパク質遺伝子を導入した上でウイルスを接種したもので、ウイルス感染していない左端のシロイヌナズナと同等の発育を示し、発症していないことが明らかだ。上段は横から、下段は上から撮影したもの。
自然界にはさまざまな植物DNAウイルスが存在し、農作物などに多大な被害を与えています。ウイルスを媒介する昆虫を網で防いだり、殺虫剤を使うなどの処置がとられていますが、時間とコストがかかり、環境負荷の問題などもあって、あまり効果的な方法とは言えないのが現状です。感染自体を防ぐことは容易ではありませんが、感染してもウイルスを増殖させなければ発病しないのではないか。そんな視点から開始されたのが、ゲノム上のある特定のDNA配列に結合する能力を高めた人工DNA結合タンパク質によるウイルス感染の新しい予防法研究です。
植物細胞に侵入したウイルスは、植物のタンパク質を利用してウイルスゲノムを複製するタンパク質をつくり、自分の分身を大量につくりだします。こうして増殖したウイルスによって、植物は病気になり、商品価値のない作物になったり、収量が著しく落ち込むことになり、多大な経済的損失をもたらしています。そこで、ウイルスゲノムを複製する過程をブロックすることで、増殖を防ごうと考えたのです。
そして開発されたのが、ウイルス複製タンパク質がウイルスゲノム上に結合することを阻害する、人工DNA結合タンパク質です。これは元々ガン治療薬として、ガンの遺伝子のみと結合してブロックし、ガンの増殖を防ぐ目的で開発した成果を植物用にアレンジしたものです。
すでに、モデル植物であるシロイヌナズナにおいて、ウイルス感染を完全に防げることが実証されています。また、トマト黄化葉巻ウイルスに対しても実験が行われています。人工DNA結合タンパク質を導入したトマトはウイルスに感染しても発症せず、免疫性を持つことが明らかになりました。そして、さまざまな作物に適用する研究も進められており、発展途上国の食料問題の解決に貢献することが期待されているのです。
世良貴史 教授 岡山大学 大学院自然科学研究科 サイエンスの面白さを社会に伝えたい |