自然に学ぶ研究事例
第121回 | DNA複製メカニズムに学ぶテンプレート重合 |
天然高分子であるDNAは、片方の主鎖を鋳型とすることで、単一の分子量を有し、立体規則性や高次構造、および異成分の配列を制御して二重らせん構造を形成している。テンプレート重合は、そのメカニズムに倣ったものである。写真はイメージ。
高分子は、分子量と3次元構造を高度に制御できれば、耐熱性や強度、弾性や粘性、光学特性などの物性が格段に上がるため、長年にわたって、アニオン(陰イオン)重合、配位重合、リビングラジカル重合など、さまざまな重合法が開発されてきました。たとえば、ある2種類のモノマーをアニオン重合すると、きれいな2重らせん構造のステレオコンプレックス型ポリマーを合成できます。ところが、この方法では金属触媒を使い、マイナス70℃以上まで冷却する必要があるため、環境負荷が大きいという課題があります。
そこで開発されたのが、天然高分子であるDNAが一本の主鎖を鋳型として、2重らせん構造を複製していくメカニズムに倣った、テンプレート重合法です。ステレオコンプレックスの一方を外したものを鋳型として利用することで、らせんの中の立体形状を記憶したナノ空間に沿って、らせん構造が繰り返し複製されることが、すでに実証されています。
この重合法は金属触媒を用いず、40℃程度の環境で重合が可能であり、省エネルギーであるために環境負荷が低く、従来法では難しかった、立体構造と長さも容易に制御できる方法として注目されています。しかし一方で、高分子間相互作用(引力や反発力)が原因で空間が閉じてしまい、反応しないこともあります。そこで、より高効率に重合を進めるために、反応機構を明確にするとともに、溶媒の種類や温度を変えて高分子間相互作用をどう制御するかという研究が行われています。
最近になって、その詳細なメカニズムが少しずつ明らかになりつつあります。そして、いま利用している2種類の材料からの安定なステレオコンプレックス形成条件の解明とともに、より汎用性の高い材料への展開などが、今後のさらなる研究に期待されているのです。
網代広治 特任准教授 大阪大学 臨床医工学融合教育センター 高分子合成における未解決問題に挑戦 |