自然に学ぶ研究事例
第122回 | 光合成細菌に学ぶ色素ナノ構造体の創製 |
有機化合物を溶液中に溶かすだけで、容易に直径40ナノメート程度のナノリングをつくることができ(左上)、これらは温度や光によってチューブへと積層する(右下)。写真は、原子間力顕微鏡(AFM)で撮影したもの。
物質がナノスケールになると、結晶や膜などの材料に比べて、光学特性や電気的特性、力学的特性、触媒的特性など、材料としての機能が劇的に異なってくることから、材料科学の新境地としてさまざまな研究が活発に行われています。そして、1分子の形状設計に留まらず、分子が自己集合してつくる集合体の構造制御の研究が世界的に活発化してきています。
これまで開発されたナノ構造体の多くは、1次元のファイバー(繊維状)やロッド(棒状)でしたが、近年、リング状や球状などの閉じたナノ構造体の開発が活発化しています。その1つに、光合成細菌に着目してナノリングを形成する研究があります。光合成細菌の光捕集アンテナ器官は、らせん状のポリペプチドとクロロフィル色素が集積して5〜10ナノメートルのリング(円環)状になっており、色素会同士が非常に均一な相互作用を形成することで、光を効率よく集め、そのエネルギーを必要なところに迅速に送ることができるのです。
このようなナノリングを構築するために、官能基を工夫することで、電子が動きやすいという特性をもつπ共役分子を用いた研究が行われています。そして、溶液中に溶かすだけで、水素結合により分子が自発的に積層し、直径40ナノメートル程度の均一な発光性リングをつくることに成功しました。また、リングの溶液を基板状で乾燥させることで、透明なフィルムが形成できることも実証されています。また、光応答部位を導入することで、光に応答してリングが積み重なったり、開く現象も確認されています。
たとえば、グラファイトの基板状にリングを並べてテンプレートとし、リングの穴にフラーレンなどを吸着させてリングを焼いて除去すれば、一定の間隔でパターニングすることができます。ナノリング集合体の研究は、光機能材料に留まらず、さまざまな材料への応用に加えて、新たな機能性材料の生産プロセスへも展開する可能性を秘めているのです。
矢貝史樹准教授 千葉大学大学院 工学研究科 夢は人工細胞をつくること |