自然に学ぶ研究事例

第123回 ヒラムシに学ぶシート型ロボットの開発
材料・デバイス開発
昆虫資源
環境に適応するロボット開発に挑戦
ロボットの動きは、環境によって制限されることが、多々ある。 生物のように環境の変化に適応できる大自由度を目指し、 岩の上や海底を這い回り、体をひらひらさせて泳ぐ、 ヒラムシに学ぶシート型ロボットの開発とは?
ヒラムシとヒラムシに着想を得て開発したロボット
ヒラムシとヒラムシに着想を得て開発したロボット

ヒラムシは、磯の浅瀬の岩の下に暮らす扁形動物で、平たく、紙のように薄い身体をしている。腹面をくねらせて岩の上などを這い、水中では身体をひらひら波立たせながら泳ぐ。 ロボットは、くねりによる推進波を生成するために、複数の体節をちょうつがいのように作用するリンク機構により連結している。各体節にはマイクロコンピュータ、モータ、圧力センサなどが搭載されている。

昆虫やヘビなど、さまざまな生物の動きにヒントを得たロボット開発が、世界的に盛んに行われています。しかし、生物のようにさまざまな環境の変化に適応し、自在に動くロボットはまだ実現していないのが現状です。そしていま、陸上、水中、空といった、全く異なる環境下で動くロボットを実現する研究が進められています。

たとえば、地上を這い、水中を泳ぐロボットを開発しようとすると、それぞれの動きを実現するために個別の制御則をつくって外部から集中管理するのがこれまでの方法でした。ある程度限定的な環境下で生物の動きを再現することは可能ですが、不測の環境変化に対応して行動するためには膨大な数の制御則が必要となり、中央集中管理では限界があります。そこで、さまざまな環境に適応可能な基本原理を抽出して、自律分散制御する方法が注目されているのです。

自律分散制御は、知覚、判断、行動などに必要とされる要素機能が自律的に相互作用することで、全体として効果的に機能するように設計するものです。自由度が高い分、環境変化に適応しやすいと考えられます。そして、そのモデルとして着目したのが、磯の浅瀬で暮らすヒラムシでした。ヒラムシは平らなシート状の身体をもち、岩や海底に身体を押しつけ、その反力で這って進み、時にはシートをひらひらさせて優雅に泳ぎます。環境の変化に応じて、移動手段を自在に選択しているわけです。

そうしたヒラムシの動きを参考に、身体のくねりで進行波を生み出す多関節ロボットが試作されました。関節の1つ1つにマイクロコンピュータを搭載し、それぞれが環境からセンサで読み取った情報に基づいて動きますが、全体が同調して、くねりの波が生成されるのです。そして、床面の凸凹を利用して効率的に這い、水流を利用して泳ぐように移動できることが確認されています。フレキシブルに動く二次元のシート状ロボットが、環境的に非常に複雑となる災害現場などで活躍する日のくることが、期待されているのです。

加納剛史 助教

東北大学 電気通信研究所

陸上、水中、空を自由に動くロボットをつくる
ヒラムシは、環境内から反力を得て推進力にしています。そこで、環境から効果的に反力を得るための原理をモデル化した自律分散制御則を元に、ロボットを設計しました。現在はまだ、一次元のロボットですが、将来的には、アクチュエータなどを工夫して軽量化し、二次元のシート状ロボットを開発したいと考えています。それにより、陸上と水中に加えて空も制覇したいというのが夢です。 これまで、さまざまな生物を個別にモデル化し、それぞれの生物の仕組みがだいぶわかってきました。今後は、生物に共通する動きの共通原理を深く突き詰めていきたいと考えています。生物が進化の過程で、どのように制御則を獲得してきたのか、そこを研究していきたいですね。

トピックス
中央集中管理による制御システムは、規模が大きく、複雑になるにつれて負荷が大きくなり、不具合も生じやすくなります。そして、中枢機構に不具合が生じるとシステム全体の故障につながるという問題があります。一方、制御を集中させず、部分(ユニット)ごとに制御する自律分散システムは、どこかに不具合が生じてもシステム全体が故障することはないという点が、大きなメリットとして捉えられています。また、個別制御される部位が集合して全体を形成するため、システムの拡大や縮小が容易なことも注目される利点となっています。 たとえば、一般的に昆虫は東部、胸部、腹部の3つのユニットで校正されており、それぞれに存在する神経節が独自に情報処理を行って、運動の一部を制御しています。これは「分散脳」とも言われますが、こうした生物の制御システムに倣うことにより生まれた概念であり、シンプルな生物に構造やメカニズムに学ぶ研究がさまざまに行われているのです。
自然に学ぶ研究事例TOPページへ