自然に学ぶ研究事例
第124回 | 粒子線に学ぶナノ構造体の創製 |
タンパク質薄膜の厚みと照射線量により、ナノワイヤーの長さと数密度を精緻に制御することができる。写真は、作成したさまざまなナノワイヤーを原子間力顕微鏡(AFM)で撮影したもの。
さまざまな分野でナノ材料の研究が行われるなか、近年、タンパク質ナノ材料の開発が活発化しています。診断用のセンシング材料や目的の細胞に薬を運ぶドラック・デリバリー・システム(DDS)への応用が期待されているのです。そして、粒子線(イオンビーム)を使い、太さと長さを完全に制御したタンパク質のヒモ(ナノワイヤー)をつくるというユニークな研究が注目されています。
粒子線は、半導体の微細加工やがん治療などに利用されますが、通常、ビーム(粒子が一方向に進むエネルギーの流れ)を集めて束にして使用します。この研究ではビームを集束させず、広範囲に均一に照射して1つの粒子が起こす架橋反応でナノ構造体をつくる“単一粒子ナノ加工法”が用いられています。
タンパク質の薄膜を粒子が通過すると、タンパク質同士がつながって、太さ数ナノメートルの世界一極細のヒモ(ナノワイヤー)ができるのです。長さは薄膜の厚みで制御され、太さと長さが均一なナノワイヤーを一瞬にしてつくる、画期的な方法と言えるでしょう。そして、従来法では数十程度が限界と言われているアスペクト比(長さと太さの比)は、1000を超えるものをつくりだすことにも成功しています。一端を基板に固定することでナノサイズの毛髪がビッシリと生えたような表面をつくりだすことがでます。非常に大きな表面積を形成でき、表面に酵素分子を固定して活性が維持できることも確認されています。
薄膜を重ねて長さの異なるナノワイヤーを2本、3本と何本も連結することや、タンパク質ナノワイヤーと別の有機ナノワイヤーをつなぐことも可能です。今後は、異なる活性を有する部分部分の長さを厳密に制御した多機能センシング材料などへの応用研究が進められる予定です。さらにワイヤー内への低分子化合物を組み入れる実験も行われ、DDSへの応用にも期待が寄せられているのです。
関 修平 教授 大阪大学大学院 工学研究科 人と似ていないユニークな研究を展開したい |