自然に学ぶ研究事例

第130回 蝶に学ぶ小型羽ばたきロボットの開発
材料・デバイス開発
昆虫資源
単純なメカニズムで羽ばたく蝶型ロボット
翅の羽ばたきのみで自らの体重を支えて飛ぶ昆虫。 単純な機構で飛行の際の姿勢を制御し、 ヒラヒラと舞うように空を飛翔する 蝶に学ぶ小型羽ばたきロボットの開発とは?
蝶とロボットの羽ばたき
蝶とロボットの羽ばたき

下2段の写真は、2枚翅蝶型ロボットとナミアゲハの飛翔を高速度カメラでスローモーション撮影したもの。それぞれコマ割した写真の一部を抜粋。ロボットの左側3枚の写真下部に見えるのは発射台。解放すると外部から初速を与えずに飛び立てる。蝶は、翅を打ち下ろすときに体を起こしながら上昇し、翅を打ち上げるときには体を戻しながら前進するという階段状の飛翔を行っており、開発した蝶型ロボットが同じように自律飛翔していることが確認できる。背景が青色の2種類のロボットは、ナミアゲハ(写真右上)に倣って作成した実験機で、上が2枚翅で下が4枚翅となっている。(撮影協力:千葉工業大学菊池研究室)

災害現場やさまざまな要因で人が容易に立ち入れない構造物内などを観測するために、カメラやセンサを搭載したMicro Air Vehicle(MAV)と呼ばれる小型飛行ロボットの開発が世界中で活発化しています。現在の主流はヘリコプター型ですが、非常に狭い空間やジグザグに曲がりくねった空間を飛行するロボットとして、昆虫の羽ばたきを応用する研究が注目されています。

ハエやトンボなどさまざまな昆虫を対象とする研究があるなか、昆虫としては大型なアゲハチョウの飛翔に着目し、シンプルで省エネでこまわりがきく小型の羽ばたきロボットを開発しようというユニークな研究が進められています。蝶が飛翔する際の姿勢の制御や翅の動きを解析し、非常に単純な機構で同様の飛翔を可能にする蝶型ロボットを試作して、自律飛翔の実験が展開されているのです。

翅を広げた長さが約100mm、重さが500mg以下という蝶と同サイズのロボットには、現時点で搭載可能な仕様のモーターやバッテリーなどがありません。そこで、動力源はねじったゴムとして自律飛翔を行わせ、そのメカニズムの解析を試みることにしたのです。ゴムの回転エネルギーをスライダーとクランクによるピストン運動の仕組みで翅の上下運動に変え、1秒間に10回ほど羽ばたく蝶型ロボットがつくられています。非常にシンプルな構造ですが、高速度カメラでスローモーション撮影して解析を行ったところ、ヒラヒラと蝶と同様の軌跡を描いて飛ぶことが確認されました。

そして、直進するときと旋回するときの翅の動きや体の動きなど、蝶の飛翔のメカニズムも少しずつ明らかになってきました。現在、ロボットは直進するのみですが、今後は、旋回を組み合わせた実験にも挑戦していく予定です。センサなどを搭載した観測システムの構築や狭い空間での飛行移動ロボットとしての実用化を目指し、最適なパラメータを抽出するための実験が重ねられているのです。

藤川太郎 助教

東京電機大学 未来科学部

自然界の卓越したデザインをロボットの設計に活かす
学生時代は工学を学ぶかたわら、自然を対象としたものにも興味がありました。そのような中、所属先の研究室でこの研究と出会い、現在も続けています。生物の形は、何十億年という進化の歴史の中でつくられてきたものですから、そのデザインは生物学的にはもちろんのこと、工学的にも非常に優れた設計だと思います。そこにある設計原理を明らかにして、ロボット開発に活かしていきたいと考えています。 また、生物を真似てロボットづくりを行うことで、これまでわからなかった、生物のデザインの秘密や動作のメカニズムが見えてくるという効果もあります。生物に倣い、将来的にはそれを超えるものをつくり出したいですね。

トピックス
昆虫の中には、驚くほど長距離を移動するものが存在します。たとえば、アサギマダラという蝶は、夏場は日本の本州の高原地帯などで過ごし、秋になると南下をはじめます。ところどころで休みながら、数カ月かけて沖縄や奄美大島、遠くは台湾まで飛行することが確認されています。追跡調査も実施されており、その距離は100km以上で、中には2000km以上旅をした個体も報告されているのです。アサギマダラの大きさは、翅を広げると10cmくらい、大型昆虫ではありますが、天候の影響も受け決して楽な旅ではないはずです。なぜこれほどに長い距離を飛行して移動するのかが注目され、研究対象とされているのです。また、長距離を飛翔するには、途中で休憩するとはいえ、省エネルギーで効率よい飛翔の秘密があるとも考えられています。 そうした昆虫の飛翔の秘密を小型飛行機に活かそうという研究が、さまざまに行われているのです。
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