自然に学ぶ研究事例
第131回 | オパールに学ぶ高分子レーザーの開発 |
左上段の写真は天然のオパールで、多彩な発色を見せている。右最上段の写真はオパールにならって作製したコロイド結晶膜で、赤、緑、青に美しく発色している(写真提供:独立行政法人 物質・材料研究機構 主幹研究員 不動寺 浩 博士)。共焦点レーザー顕微鏡でコロイド結晶構造を観察すると、数百nmの微粒子が規則正しく密に配列していることがわかる(右上から2段目)。中段の写真は、コロイド結晶ハイドロゲル膜を用いたレーザーの顕微発光像で、左から波長が 655nm 、610nm、588nmとなっており、連続的、可逆的に波長を変えることができる。下段の写真は、発光性の無機ナノ材料を透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影したもので、ナノスケールでサイズが揃っていることがわかる。
多彩で複雑な色合いをもつ宝石として珍重されるオパール。その発色は、ナノサイズのシリカ微粒子が規則的に並び、3次元の周期構造を形成するコロイド結晶に由来するものです。長い時間をかけて自然に集積、配向した微粒子の大きさや形状、間隔などのナノスケールの微妙な違いによって反射光が変化し、さまざまな色の美しい輝きを放っているのです。
そうしたコロイド結晶を高分子と複合化することで、色が変化する高分子レーザーを開発しようという研究が行われています。ハイドロゲルでコロイド結晶を固定化し、間に有機色素を挟んだ膜をつくり、光を当てるとレーザー発振することが確認されたのです。柔軟性、含水性が高いハイドロゲル中に密度を薄くした非最密充填でコロイド結晶を形成すると、圧縮、延伸などの外部刺激で微粒子が動きます。結晶構造を保持したまま微粒子の間隔が広くなったり狭くなったり変化しつつ、一定の間隔を保って配向することで反射波長が変わり、色が変わる波長可変レーザーができたのです。
また、ハイドロゲルは水中から出すと乾燥して固くなってしまうという課題がありました。そこで、水と親和性が高く、ハイドロゲルを膨潤させることができるイオン液体をさまざまに探査し、水と置換することで、長期にわたってハイドロゲルの乾燥を防ぎ、膨潤状態を保つことにも成功しています。これにより、場所を選ばずに膜を作成し、利用できるようになりました。
現在は、フルカラーでレーザー波長を制御する研究、有毒元素を含まない無機ナノ材料を利用した発光の安定化に関する研究なども進められています。赤・青・緑の3つの光源でさまざまな色を再現しているのが現状ですが、将来的には、レーザーテレビやレーザーによる診断・治療へ応用できる、1つの光源でフルカラーを再現する長寿命なデバイスの開発が期待されているのです。
古海誓一 准教授 東京理科大学 理学部 新しいことにチャレンジし、研究の幅を広げたい |