自然に学ぶ研究事例
第145回 | プラズマの自己組織化に学ぶ渦構造の制御 |
銀河は、渦が回り続けることで安定的な構造になっている(写真上)。写真左下は木星磁気圏の理論モデルで、渦の中心部が高密度で高温になると考えられている。写真右下は、実験装置で生成された磁気圏型プラズマの渦。真空容器の中に超伝導マグネットを浮上させ、ガスを注入してマイクロ波を1秒入射すると、自己組織化によりプラズマの渦が生成される。理論モデルと同様に、渦の中心部に高温化が見られた。
物質は一般に、温度が上昇して高エネルギーになるにつれて固体、液体、気体、プラズマ(荷電粒子集団)へと状態を変化させます。地球上ではプラズマは特殊な装置がないと安定に存続できませんが、宇宙ではほとんどの物質がプラズマで、その存在の様態は2つに大別されます。1つは、重力によって塊となってできる星です。もう1つは、銀河のようにプラズマが渦構造を形成し、重力につぶされることなく安定的に回り続けるものです。
星の内部に閉じ込められたプラズマは非常に高温で高密度となり、水素がヘリウムに変換されるなどの核融合が起こることで、膨大なエネルギーを生み出します。代表的な例が太陽であり、太陽系の惑星に住む私たちは、このエネルギーの恩恵を受けて生命活動を維持しています。そして、星はエネルギーを生み出すだけでなく、元素を合成する「坩堝(ルツボ)」でもあるのです。
天体磁気圏ではプラズマは渦構造を自発的に形成し、渦の中心部では加速して高温となったプラズマが高密度で集積しています。このメカニズムを応用すれば、星の内部と同様の核融合エネルギーが生成されると考えられます。そこで、自己組織化のメカニズムやプラズマの挙動を調べるユニークな研究が行われています。木星磁気圏の理論モデルに基づき、実験装置で磁気圏型プラズマの渦を生成して観測したところ、渦の中心部に数億℃という高温のプラズマが発生することが確認されたのです。
未来のエネルギーとして実用化が待たれる核融合。星の内部で起こっている超高温高圧な現象をそのまま地球上で再現することはできませんが、磁場を利用して渦の中に安定的にプラズマを閉じ込めることで、先進的な核融合エネルギーを実現できるのではないかと期待されているのです。
吉田善章 教授 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 科学の研究は第一に正確であること |