自然に学ぶ研究事例
第155回 | ヤブガラシに学ぶ植物型スマート構造の開発 |
ブドウ科のつる植物の1種で、草木や樹木、フェンスなどの人工物に巻き付き上へ上へと伸びて行く繁殖力の強い雑草。巻きひげで接触して最適なパターンで対象物に巻き付く。全方向に巻き付くことができるのが特徴で、自身の葉っぱに巻き付くことはない。全周巻きパターンとクリップ型で、対象に応じた最適パターンを生み出している。
人工構造物に生体の脳、神経、筋肉などと同じように、知覚や判断、応答という機能を持たせて状況に応じた自律的な動きを可能にするスマート構造。これまでは、センサで感知して神経系で情報処理を行い、モーターに情報をフィードバックして作動する、いわば動物型のメカニズム開発が主流でした。そこに、視覚や神経系をもたないのに環境に適応して生育する植物規範を取り入れたユニークな研究が行われています。
研究対象となったのは、つる植物の1種であるヤブガラシという雑草です。他の植物や柵などの人工物に巻き付き、自身のからだを支えて上へ伸びて行きますが、つかむ相手に対して巻きひげを変形させて最適なパターンで巻き付くという非常に複雑な動きをしているのです。これまで、巻きひげの動きを詳細に観察したところ、巻き付く相手の直径が細い場合はつるを全周に巻く(通常巻き)、直径が太く巻きひげが長い場合は途中でUターンしてクリップ状になる、直径が太くて巻きひげが短い場合は巻き付くのをあきらめて離れて行く(先端のみ接触・離脱)という3つのパターンに分類できることがわかりました。非常に合理的な巻き方をしていることが明らかになったのです。
さらに、巻きひげへのマーキングと画像データ解析により3D座標データ化を進め、パターンの違いがどのように生じてくるのか、そのメカニズムの解明を進めています。植物は神経系を持っていませんが複雑な動きを可能にしているのは、巻きひげ自身がセンサとして、同時にモーターとしての役割りを担い、独立的に判断して最適なパターンを生じさせているためだと考えられるのです。
この情報処理と動きのメカニズムをスマート構造に利用できれば、複雑なセンサネットワークや情報処理系統のない、植物規範のシンプルな機械ができるのではないかと考えられています。将来的に、たとえば内視鏡手術用のガイドワイヤーなど、アクセスが難しい場所で自在に動く植物型ロボットが生まれるかも知れないのです。
斉藤一哉 助教 東京大学 生産技術研究所 深野祐也 助教 東京大学大学院 農学生命科学研究科 植物規範で従来にない機械をつくりたい |