自然に学ぶ研究事例
第157回 最終回 | 生体の視覚系に学ぶ内視鏡システムの開発 |
開発した極微細蛍光内視鏡システムのプロトタイプを用いて、直径4μmの蛍光ビーズ (写真左下)と抑制性ニューロンに蛍光タンパク質 GFP を発現している動物の大脳皮質から抑制性ニューロンの細胞体の蛍光像(写真右上)を捉えることに成功。単一細胞を十分に可視化できることが明らかになった。下段の馬の画像は、ファイバー素線による格子模様がある場合と高速に微振動を与えた時の画像の見え方の違いを描いたイメージ図。背景の光ファイバーもイメージ。
脳の機能を解明するために、多数のニューロンの活動を同時に計測する多細胞イメージングという手法の発展が望まれています。しかし、従来の顕微鏡を用いた機能イメージング法では、1mm以上の深部を観察することはできなかったのです。そこで、より深い場所をイメージングできる、極微細蛍光内視鏡システムが開発されました。直径450ミクロンという微細な内視鏡内には、脳内を撮影するためのレンズと、脳内に光を当てて外部の装置に画像を送る画素数1万のイメージファイバーが収納されており、マウスやラットの脳の活動を観察することに利用されています。
内視鏡は観察する深度を自由に選択できること、低侵襲(しんしゅう)であることなどが利点ですが、細い管の中に1万本の光ファイバーが束ねられているため、ファイバー素線による格子模様ができてしまい、画像処理が必要になるという問題がありました。従来から行われている方法には専用のソフトウエアを使った処理などもありますが、オンラインで処理できないなどの課題があり、簡便にリアルタイムで処理する方法が求められていました。
ヒントとなったのは、生体の網膜の残像現象や空間平滑化などの視覚機能でした。網膜にはセンサが粒状にたくさん並んでおり、網膜が動くことで鮮明な画像を見ることができるのです。そこで、イメージファイバーを機械的に高速で微振動させることで、光ファイバー素線像による格子模様を消すことができるだろうと考えたのです。
こうして開発された機械式画像平滑化フィルタは、リアルタイムで画像処理が可能であり、ソフトウエアに頼らないため応用範囲が広く、低コストだという特徴があります。このフィルタを搭載した極微細蛍光内視鏡イメージングシステムで、蛍光タンパク質を利用して、細胞種の識別、多細胞を同時に可視化する実験などに成功しています。今後は、もう少し大きな動物への応用、将来的に人の臨床への応用なども見据えた研究が進められて行く予定です。また、医療だけでなく、工業的破壊検査、災害応用などへの応用も期待されています。
小山内 実 准教授 東北大学大学院 医学系研究科
小さなことでも新しい発見を見逃さない 私は基礎研究者という立場から、不思議なことを明らかにするという姿勢で研究を行っています。動物が発信する情報から意味のあることを見つけるためには仮説にとらわれないこと、小さいことでもいいので新しい発見を見逃さないことを大切にしていきたいと考えています。 脳・神経の研究は院生時代から行ってきましたが、動物で安全に脳の機能を計測する方法はないかと考えてたどり着いたのが内視鏡でした。つい最近まで、動物用の内視鏡は販売されていなかったため、研究者が自分でつくらざるを得ず、この極微細蛍光内視鏡イメージングシステムの開発に関わることになりました。昔は役立つためだけの研究なんて面白くないと思っていましたが、たまたまやってみたことが人の役に立つならば応用を進めてもらえばいいし、いまは基礎研究と応用研究をうまくバランスをとって進めて行ければいいと思いますね。 |