自然に学ぶ研究事例

第10回 コンニャク石に学ぶセラミック
材料・デバイス開発
鉱物資源
ぐにゃぐにゃ曲がる 強靱なセラミックス
陶磁器の技から進化した電子セラミックスや圧電セラミックス。 それらは最先端のセンサーや携帯電話に搭載されている。 さらなる万能素材への課題は、柔軟性と加工性の進化。 その解決策をもたらした、コンニャク石に学ぶ新技術とは?
コンニャク石 (白雲母石英砂片岩)<br>[学名] Itacolumite
コンニャク石 (白雲母石英砂片岩)
[学名] Itacolumite

数百ミクロンの石英粒子とマイクロクラックが3次元的に絡み合う微構造で、可撓性を有する。 産地としてはブラジルのミナスジェライス州が代表的で、その南端イタコルミイは、特異な地質(雲母石英砂岩質片岩)をもっている。この地方では、「コン ニャク石」の加工のしやすさから、壁材や屋根瓦などの建材としても古くから使用されてきた。この他、北アメリカ・インド・フランスなどでも産出される。

細かい鉱物の結晶粒がびっしりと凝集したセラミックス。その強固な構造に着目し、古くは食器や タイルに、現在は、圧力を加えると電気などを発生させる特性を活かし、電子セラミックスや圧電セラミックスとして、TVや携帯電話、センサーにも搭載され ています。しかし、熱に強く、硬い反面、“もろく加工しにくい”のが弱点。強靱でありながら、曲がるセラミックスの開発が永年期待されていました。

セラミックスとは、金属材料、プラスチックス等の高分子材料と並ぶ三大材料の一つです。金属は、金属元素どうしが金属結合されたもの、高分子材料は、炭 素・水素・酸素・窒素等の非金属元素が共有結合したもの、そしてセラミックスは、金属元素と非金属元素がイオン結合または共有結合したもので、高温度で加 熱してつくられた無機・非金属質の固体材料のことをいいます。例として、陶磁器、れんが、タイル、セメント、ガラス、研磨剤などがあげられます。最近では 技術開発が進み、各種センサやIC基板・ICパッケージ等の電子材料、人工骨等の生体材料、合成宝石、切削工具はじめ多方面で活躍しはじめていて、ファイ ンセラミックスとよばれています。現在でも数々の課題を克服し、さらに機能的な材料となるべく新たな技術が進められています。

この“もろく加工しにくい”弱点を解決するヒントは、自然界にありました。それは、ブラジルやインドで産出されるコンニャク石。水晶や石英を構成する二酸 化ケイ素の小さな粒が、ジグソーパズルのように絡み合っている岩石です。風化により粒同士を接着する鉱物が溶出し、内部に多くのクラックができるため、そ の“あそび”の分だけぐにゃぐにゃと曲がるのです。

二酸化ケイ素の小さな粒の大きさは数百ミクロン。体積の約10%が隙間(クラック)になっています。

この構造をヒントに、熱膨張率の高い鉱物と低い鉱物を粉にして焼き固め、冷却、その膨張差からコンニャク石同様のクラックをつくり出すことに成功しまし た。ついに曲がるセラミックスが誕生したのです。そして現在は、そのクラック部分を柔らかなポリマー樹脂で埋めた、柳のようなしなやかさと強靱さを併せ持 つ「人工靭性セラミックス」へ発展しようとしています。

地球創成のメカニズムに学んだこの新材料は、ノコギリで切ることもでき、その気孔構造により熱伝導率も低く、保温性もあります。そのため、木材を代替する 暖かな床材や浴室タイルへの活用、また、内部クラックが外部からの応力も緩和するような地震などに強い建物の基礎や建築材料としても、さらなる改良と活躍 が期待されているのです。

太田敏孝教授

名古屋工業大学 セラミックス基盤工学研究センター  

然鉱物への興味を研究の糧として
私はセラミックスの熱膨張の研究を基礎に、スペースシャトルなどに使われる、割れない、はがれない「傾斜機能材料」などの多様な材料研究を行ってきまし た。コンニャク石の研究は、実は学生の卒業研究がきっかけです。当初はクラックをつくるために、紙を混ぜて燃やしたり、粉自身をギザギザにするなど、試行 錯誤と失敗の連続でしたが、熱膨張率の違いを利用することで目指していた構造へと到達しました。現在では、可撓製(かとうせい)セラミックスの特許を申請 し、実用化研究を進めています。また、新しい挑戦として、天然木の化石“珪化木”の生成プロセスと超微細多孔構造の摸倣研究を進め、フィルター、バイオリ アクター、人工骨材にも応用可能な人工多孔質セラミックスの製作も試みています。自然界に存在する物質や現象こそが、持続可能なものづくりの基礎です。地 球に学ぶ新規セラミックスの創製が、私の役割だと確信しています。

トピックス
日本語ではコンニャク石と呼ばれるイタコルマイト(イタコロミ石)。その名称は、ブラジルのミナスジェライス州オルト・プレート地区にある「イタコロミ山」付近で最初に採掘されたことに由来しています。そして、同地域の地下の大部分を構成するこの石は、産業を支える重要な資源でもあり、厚さ2センチ程の石を積み重ねた壁や屋根瓦、加工しやすく柔らかいという特性を利用した窓枠のアーチ部分など、古くから建材として利用されてきました。今でも近隣の街では、このような特徴的な建物をあちらこちらで見ることができます。 また、この地域では「街が光る」という不思議な現象が起こり、それもこのコンニャク石が原因ではないかという説があります。石に強い力で圧を加えると僅かに光るという現象(ルミネッセンス現象)によるものとも、石の主要構成物質でもある水晶の帯電しやすいという特性によるものともいわれています。
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