自然に学ぶ研究事例

第97回 最終回 自己組織化に学ぶ光機能性材料の開発
生産システム
生体機能
ひとりでに組み上がる発光性ナノカプセル
DNAの二重らせんなど、生体内では分子が自発的に 集合して規則正しいナノ構造体を形成している。 この自己組織化の仕組みに学ぶ、材料を混ぜるだけ で組み上がる光機能性材料の開発とは?
さまざまな発光色を示すナノ材料
さまざまな発光色を示すナノ材料

銅イオンを用いたナノカプセルを4種類の溶媒に溶かして可視光下で観察(写真上段)、それらに紫外光を照射すると青色に発光する(写真中段)。また、ボウル型分子(ナノボール)をさまざまな溶媒に溶かして紫外光を照射したもの(写真下段)。溶媒の種類により、ナノ構造体の発光色を制御できる。(試料作成および撮影:李稚鴎 博士研究員)

高性能な発光性材料の研究開発が活発に行われていますが、それらを比較的安価でシンプルな分子から、簡便にかつ大量に作製できる方法が求められています。そんな中、生体内のDNA二重らせんやタンパク質などに見られる、複数の分子が自発的に集合して三次元構造体を形成するメカニズム(自己組織化)に着目したユニークな研究があります。そのメカニズムを模倣して、有機分子と金属イオンを溶液中で混合するだけで組み上がる、発光性のナノカプセルの作製に挑んだのです。

試行錯誤の結果、従来の人工的な自己組織化で利用されてきた希少で高価な金属イオンを使わず、安価で生体内にも存在する亜鉛や銅イオンを用いても、約1ナノメートルのカプセル状構造体を作れることが明らかになりました。また、これらのナノカプセルは、紫外光の照射によって青色に強く発光しました。さらに、銅を含むナノカプセルは、溶媒の種類によってその色と発光の強度が変化し、発光のオン-オフが可能なので、外部環境に応答する発光センサーなどに応用できると期待されています。

この方法は、金属イオンと有機分子の可逆的な配位結合を利用しています。そのため、カプセル構造は室温で安定に保持していますが、高温にすると、その結合を一時的に切ることができます。この柔軟な結合の仕組みにより、カプセルの内部空間に種々の分子を取り込むことや放出することが簡単にできます。特に、パラジウムを利用したナノカプセルは、次世代の機能性ナノ材料として注目されるフラーレンC60を選択的に取り込むことが明らかになりました。

そして、発光性ナノカプセルの内部にさまざまな発光性分子を取り込ませることで、光機能の“積算(重ね合わせ)”による新規な発光性材料の開発も進められているのです。

吉沢道人 准教授

東京工業大学 資源化学研究所

三次元構造を極めて、ユニークな機能性ナノ材料を生み出す
私たちの研究室では、原子と高分子の間のサイズ領域に位置する1〜2ナノメートルの三次元構造体を扱っています。具体的には、平面状の有機分子であるアントラセンに着目して、それらを三次元的に張り合わせることで、カプセル状やチューブ状、ボウル状のナノ構造体を作製しています。これらの三次元構造体の特徴は、外界から隔離されたナノサイズの空間を備えていることです。この空間の特性を活用することで、ユニークな機能性ナノ材料の開発に挑戦しています。 新しいナノ構造体の設計、合成、解析から、それをどのように利用するかまで、研究室の学生たちと一緒に考えながら研究を進めています。新しいものをつくることの面白さと大変さを共に感じながら、学生たちが次の世代を担う研究者に成長していくことを応援していきたいと思っています。

トピックス
フラーレンC60の合成では、C70やC84が混在してできてしまいますが、パラジウムナノカプセルを用いれば、その中からC60だけを簡単に抽出することができます。また、フラーレンは水系の溶媒に溶けないため、利用できる範囲が限定されています。ところが、ナノカプセルに入れるといろいろな溶媒に溶かすことができ、固体としても液体としても幅広く利用することが可能になります。ナノカプセルに閉じ込めることで、物質の本来の性質を変えることができるのです。こうしたナノカプセルの特徴は、目的の場所まで運んで薬剤を放出するドラッグデリバリーシステム(DDS)、溶解しにくいものを溶かす分散剤として、また特定の物質の分離剤などへの利用も考えられ、さまざまな分野に向けた応用研究が行われています。
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