自然に学ぶ研究事例

第98回 最終回 人の足の構造に学ぶ2足歩行ロボットの開発
材料・デバイス開発
生体機能
柔軟な足で自律歩行を実現
転倒による故障防止などを目的に、固く丈夫に設計されるロボットの足。足の柔軟さから生まれる変形を利用して 歩行するという、従来の概念をくつがえす発想による人の足の構造に学ぶ2足歩行ロボットの開発とは?
柔軟な足をもった2足歩行ロボットと人の歩行
柔軟な足をもった2足歩行ロボットと人の歩行

柔軟な足をもった2足歩行ロボットと人の歩行 ロボットの身長は、60センチメートル。人の歩行で重要なポイントとなるアーチ構造と歩行の際の接地点となる踵、指の付け根、指先(人の歩行写真中の白い点)が変形可能な足部のモデルを作製し、股関節と膝関節にそれぞれサーボモータを実装。速度や傾斜の変化にも対応し、連続歩行が可能。(ロボット製作協力: 大学院生 久保翔達君,福田裕樹君)

人の足は、片足で26個の骨と腱、筋肉が複雑に組み合わさることで、変形可能な柔軟な構造になっています。また、足裏の内側と外側に、さらに内から外に横断するアーチ構造があり、スムーズな体重移動や衝撃吸収などに役立っています。そして柔らかな足裏から、たとえばデコボコなどの歩行環境を感知して、人は状況に対応した歩き方をしているのです。このような感覚器官としての人の足裏構造に着目し、2足歩行ロボットに応用しようというユニークな研究があります。

私たちが歩くとき、片足は地面に着いていて身体を支え(支持脚)、もう一方の足を振り上げて前に出す(遊脚)動作を一定のリズムで繰り返します。このような歩行を実現するべく、ヒト筋骨格構造を参考に柔軟に変形可能な足部をコンピュータ上でモデル化し、各脚を力覚情報(荷重の変化)に基づき制御する歩行パターン生成器が構築されました。シュミレーションによって有効性が確認され、実世界への適応性を検証するために、その制御則を実装したプロトタイプロボットも製作されています。

巻きバネを利用したアーチ構造、円弧形状の足に人肌ゲルを接着することで柔らかい足を実現しています。ゲルには圧力センサを埋め込み、ゲルの変形から生み出される力を検出してフィードバックすることで、歩行中のリズムを調整しながら自律歩行するロボットです。股関節はサーボモーターで動かし、足裏のセンサが反応すると膝関節の反射機構が働いて転倒を防ぐ工夫もされています。これまでの実験では、斜面に応じた歩き方が可能で、後ろからある程度の力を加えても転倒せずに歩行を継続できることなどが確認されています。

より人に近い構造をもったロボットの研究は、さまざまな環境に対して柔軟に適応可能な2足歩行ロボットの実現と同時に、感覚情報獲得と運動生成の協調メカニズムを解明していくことで、たとえば義足等の設計、リハビリテーションなどにも知見を役立てることができると期待されているのです。

大脇 大 助教

東北大学 電気通信研究所

自律分散制御で、環境変化に適応できるロボットを創る
人と同じ環境下で動作するロボットの開発を目指して、2足歩行ロボットの研究を進めています。これまでのロボットは、主としてメインコンピュータ(脳)で中央集権的に制御する方法がとられてきましたが、私たちが行っているのは、身体の物理的特性をも積極的に活用することで身体の各部位をある程度自由に地方分権的に制御する自律分散制御です。従来型の制御は設計者の想定範囲内でしか行えず、想定からはずれてしまうと一気にパフォーマンスが落ちてしまいます。一方、生物は想定外の状況にも柔軟に対応できます。ロボット製作を通して、生物の運動生成のメカニズムを解明することも、私たちの大きな目標の1つなのです。 足のアーチ構造、踵や指先からの感覚情報が運動生成にどのような影響を与えるか、今後はセンサの数を増やすなどして詳細に調べていきたいですね。そして、ロボット開発から得られる知見は、きっと人のためにも役立てられると思っています。

トピックス
人の足(踝(くるぶし)から下)の骨は、「足根骨(そっこんこつ)」「中足骨(ちゅうそくこつ)」「趾骨(しこつ)」の大きく3つの部位に分かれています。足根骨は踵(かかと)から足の真ん中くらいまでの部位で、7個の少し大きめの骨が固く密着しています。趾骨は指の骨で14個からなり、その間を結んでいるのが中足骨で5個の少し長めの指の骨のような形をしています。これで計26個ですが、小さな2つの種子骨を加えて28個と数えることもあります。中足骨と趾骨は動きやすくなっており、この間をつなぐ関節はそれぞれの英語の頭文字をとってMP関節と呼ばれていますが、歩くときに足はこの部分で屈曲します。 また足のアーチ構造は3つ。内側縦アーチが一番大きなアーチで土踏まずにあたります。外側縦アーチは小さくて、触ってみるとわずかに窪んだ感じがわかります。横のアーチはMP関節のところで横に広がっているものです。3つのアーチ構造が足をけり出すバネや衝撃を和らげるクッションの役割、そして足底の筋肉や神経を保護する役割も担っています。このような複雑で合理的な構造をもった足が、私たちの活動、ひいては健康を支えてくれているのです。
自然に学ぶ研究事例TOPページへ