自然に学ぶ研究事例

第147回 天然の高分子合成に学ぶ高分子形態学の構築
生産システム
自然のメカニズム
重合しながら形態をつくる“重合相変化”
分子が結合していく重合過程と 自己組織化による形づくりが並行して起こり、 タンパク質やDNAなどの独自の機能と形態を生み出す、 天然の高分子合成に学ぶ高分子形態学の構築とは?
自然発生的にらせんを巻いた高分子
自然発生的にらせんを巻いた高分子

実験は、試験管の中にモノマーと溶媒を入れて加熱し、放置しておくだけのシンプルなもの。重合の途中で相分離(沈殿)をうまく利用して、さまざまな形態の高分子を得ることができる。らせんの巻き方は、右巻きと左巻きが半々くらいの割合で出現する(写真上)。濃度の調整により、らせんを巻かない部分と巻く部分がつながった形態も得ることができる(写真左下)。

ベンゼン環構造をもつ芳香族高分子は、力学的に強靭で、耐熱性や化学安定性、対放射線性にも優れており、高性能な高分子としてさまざまな分野で利用されています。ところが、高性能ゆえに、一般的な溶媒に溶けず、加熱しても溶融しないため、成型が難しいという課題があります。そのため、わざわざ性能を少し落として成型しやすくしているのが現状です。

芳香族高分子の合成は一般に、原料となるモノマー(1量体)同士をくっつける重合という過程を経て、オリゴマー(低分子)になり、さらに何千という分子が結びついてポリマー(高分子)となります。そして、重合した高分子を目的の形状に成型していろいろな製品がつくられています。一方、自然界に目を向けてみると、セルロース、でんぷん、タンパク質、DNAなどの天然の高分子は、実は重合と自己組織化による成型が同時進行的に行われ、生命活動に必要なさまざまな必要な機能を十分に引き出す多様な形がつくられているのです。

こうした天然の高分子合成にならい、重合しながらさまざまな形態の高分子をつくる“重合相変化”の研究が行われています。試験管に溶媒とモノマーを入れて加熱後、数秒間撹拌してから放置しておくだけというシンプルな方法ですが、これまでの実験で、針状結晶(ウィスカー)、微粒子、菱形状結晶、花弁状結晶、リボン状結晶などがつくられています。また、らせん形の高分子も初めて確認されました。さらに、濃度を調整することで、らせんを巻く部分と巻かない部分とがひとつながりになった形態も可能になっています。

現在、らせんが何に起因するのか、また巻き方をどう制御するかなど、詳細な研究が続けられています。そのメカニズムが解明されれば、さらに複雑な高次構造も可能になると考えられます。性能を落とすことなく、自在な形態を可能にする新しい精密合成法として、期待されているのです。

木村邦生 教授

岡山大学大学院 環境生命科学研究科

新しい発見の連続が発明につながる
重合の途中で相分離を引き起こすことで、さまざまな形状が可能になると考えていましたが、らせんが巻くことは思ってもいませんでした。現在、巻き方の制御はまだできていません。いろいろと条件を変えて調べていますが、らせんをコントロールできれば、より複雑な高分子集合体をつくるブレイクスルーになると考えています。 新しい重合法でできたいろいろな構造は、すべて予測してつくったものではありません。予測をはるかに超えた現象を自然界は見せてくれるので、それを素直に受け止めることを大事にしたいですね。新たな発見の連続がさらに大きな発明につながると思いますので、1つの疑問が解けたら、さらに複数の疑問が湧いてくるようなテーマを選ぶように心がけています。

トピックス
モノマー(1量体)が2量体に、そして3量体にというように、逐次的に重合反応がおこり、オリゴマー(低分子)、ポリマー(高分子)が形成されていきます。そこで、低分子は溶かすけれども、高分子は溶かさないという溶媒を使用して重合を行うと、途中でまったく溶けなくなり、2液相分離(沈殿)が誘発されて、特集な構造をもった結晶や微粒子を得ることができるのです。そして、粒子に針が生えた花粉のような形状の物、針状結晶による不織布など、さまざまな形状の高分子がつくられています。またらせん構造は、DNAやタンパク質などを構成する特徴的な構造でもありあります。らせん構造を制御した高分子の開発に、大きな注目が寄せられているのです。
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