自然に学ぶ研究事例

第156回 筋肉の収縮に学ぶ分子マシンの創製
材料・デバイス開発
生体機能
特殊なタンパク質の機能を低分子で再現する
姿勢を保持し、動きの原動力となる筋肉。 その動きの仕組みは、収縮タンパク質が刺激によって相互作用し、収縮と弛緩を繰り返すことにある。 筋肉の収縮に学ぶ分子マシンの創製とは?
筋肉
筋肉

筋肉は、おもに2種類のタンパク質が、神経からの電気刺激と、生体のエネルギー源であるアデノシン三リン酸による化学的刺激に応答してスライドし、収縮と弛緩を繰り返す。写真はイメージ。

筋肉は、主にアクチンとミオシンという筋原線維を構成する2種類のタンパク質が脳からの電気刺激やカルシウムイオンが流入する化学刺激に応答してスライドし、収縮と弛緩を繰り返すことで動いています。このメカニズムを応用して動かす分子マシンの研究がさまざまに行われていますが、実現に向けていま求められているのは、一連の動きを可能にする人工材料の開発です。

その1つに、外部刺激(電子の授受、酸化還元反応)により可逆的に構造が変化して収縮を繰り返す、人工低分子を開発しようという研究があります。これまでの研究で、正方形に近い構造の分子が、電子を与える(還元)と横の辺が伸び、かつ縦の辺が3分の1くらいに縮んで長方形になり、電子を奪う(酸化)と再び正方形に戻るというものが開発されています。そして実験によって、構造の変化が繰り返し起こって収縮することも確認されました。

ただ1分子では、小さな動きしかつくり出せません。そこで、自己組織化により分子を基板上にキレイに並べて分子集合体を形成する、また重合して高分子にすることで、大きな動きを生みだそうという研究が行われています。分子の巨大化を進めることで、筋肉のような動きを再現することが可能になるだろうと考えられているのです。

まだ課題はありますが、人工筋肉のようなシステムが構築できれば、たとえば血管内で収縮することで血流を調節するナノマシンやバイオセンサーなど、自律的に動くさまざまな分子機械として利用できるのではないかと期待されています。また、構造の変化によって色が変化する低分子も開発されており、診断薬などに応用すべく、さらなる研究が続けられているのです。

高須清誠 教授

京都大学大学院 薬学研究科

自然に学び、自然を超える機能を生み出す
私は新しい化合物をつくることに興味を持っており、望みの分子を自由自在につくる方法をいろいろと発見しました。この研究を開始したのは、学生時代に非常にインパクトを受けた筋肉の動きを、巨大分子であるタンパク質の代わりに低分子を使って再現しようと考えたのです 。

楽しくないと研究じゃないというのが、私のモットーです。この分子を見たら、“高須がつくったんだな”と思ってもらえるような“へんてこりんなもの”をつくりたいと考えています。そのためには分子がどんな振る舞いをしたがっているのか、分子の気持ちを知りたいと思って研究を進めています。わからないものをどういう方法で解明していくか、考えることが好きで、次第にわかってくるプロセスが楽しいですね。自然に学びながら、いつか自然にはない機能を生み出すことが目標です。

トピックス
筋原線維(横紋筋)は、細いアクチンフィラメントと太いミオシンフィラメントが交互に配列して、縞模様のようになっています。脳からの電気信号と、細胞のエネルギー源であるATP(アデノ三リン酸)からカルシウムイオンが流入することで、フィラメントの可逆的スライドが始まります。このとき、それぞれのフィラメントの長さは変わりませんが、各列の間隔が広がるために全体として伸びたり、元に戻って縮んだりという運動を生みだしているのです。簡単に筋原線維が伸びたり、切れたりしない生体の優れた構造と言えるでしょう。 また、この研究では構造変化により色が変化する分子も開発されています。これは、イカの体色が色素細胞の伸縮によって起こることにヒントを得たものだそうです。透明から薄茶、黒に近い褐色へとダイナミックに色を変化させるイカにならい、酸化還元反応で、大きく色調を変えることに成功しています。
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