「カーボンナノチューブ温度差発電シート」実証実験開始について

・奈良先端科学技術大学院大学との共同研究成果
・18年度の製品化を目指し、パートナーの探索に着手

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  積水化学工業株式会社(社長:髙下貞二、以下「当社」)の高機能プラスチックスカンパニー(プレジデント:加藤敬太)は、奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科 光情報分子科学研究室の河合壯(かわいつよし)教授、野々口斐之(ののぐちよしゆき)助教ら(以下、「奈良先端大」)が取り組む「カーボンナノチューブ熱電変換材料(以下、CNT熱電材料)」の開発に参画しています。
  去る3月30日、同大学よりCNT熱電材料の開発の進展について発表*1されたところですが、当社は、このCNT熱電材料を活用した「カーボンナノチューブ温度差発電シート(以下、CNT温度差発電シート)」を試作し、有機系従来品と比較して大幅な性能向上が見込めることを確認しました。
 これをふまえ当社は、開発品サンプルの提供など実用化に向けた実証実験を開始し、さらなる性能向上を進めるとともに、デバイス開発・生産プロセス・アプリケーションなどサプライチェーンの各段階におけるパートナーの探索を進め、2018年度の製品化を目指します。


*1:奈良先端科学技術大学院大学プレスリリース「炭素材料の温度差発電性能を食塩の添加により飛躍的に向上」


1.CNT温度差発電シートについて

  CNT温度差発電シートは、半導体性CNTの両端に温度差を与えると電力が発生する現象(ゼーベック効果)を利用した発電デバイスです。


図1:CNT温度差発電シートの基本構造と発電の様子



  今般、奈良先端大から発表された技術は、熱電変換性能と耐久性に優れたn型半導体性CNTを実現し、CNT温度差発電シートの実用化を大きく前進させるものです。CNT温度差発電シートは、生活環境等の身近な温度領域での発電が可能で、温度差を利用したエネルギーハーベスティングへの利用が期待されます。
  また、CNT温度差発電シートは、鉛、テルル等の毒性物質を全く含まないため、環境親和性の高い発電デバイスといえます。


  当社は、当社が有するナノ材料分散技術、化学修飾技術、成膜技術などの技術を生かして、発電シートとしての実証実験可能なサイズのCNT不織布(写真1)作製に成功しました。さらに、このCNT不織布から個片化された素子をフィルム基板上に配列した温度差発電シートのサンプルを提供しています(写真2)。


 


当社の試作したCNT温度差発電シートの特徴は、

写真1:CNT不織布外観


1.薄型、軽量、フレキシブル

2.低温度領域で発電が可能(高温側:50℃~150℃)

3.毒性物質不使用

であり、現在の試作品において、以下の性能を達成しています。


出力特性:(ΔT= 50 ℃、CNT素子100対)
                Voc:250mV
                Isc:7.6mA
                Pmax:475μW

写真2:発電シート試作品外観


寸法:123㎜×68㎜×2㎜t(最厚部)リード線除く

重量:5g以下

※データは、参考値です。構造は、変更されることがあります。



CNT温度差発電シートの発電デモ動画がご覧いただけます


(動画内容:水を入れたビーカー外側にCNT温度差発電シートを貼り、ドライヤーの熱風をシートに当てます。シート両面に温度差が生じることで発生した電気で発光ダイオードが光ります)


(参考情報)
・奈良先端科学技術大学院大学と当社との共有特許
【特許番号】特許第5768299号(P5768299)
【発明の名称】「ドーパントの選択方法、ドーパント組成物、カーボンナノチューブ-ドーパント複合体の製造方法、シート状材料およびカーボンナノチューブ-ドーパント複合体」



2.CNT温度差発電シートの用途展開・製品化目標について

  開発中のCNT温度差発電シートは現在のところ、ワイヤレスセンサー向けのエネルギーハーベスティング用途を想定しており、特に、乾電池やPVでは対応困難な「高温多湿な環境下で定期的な交換・診断が難しく、かつ昼夜問わず常時監視の必要な設備のセンサー用電源」の用途を想定しています。具体的には、


・ビルディングや大型商業施設の地下施設、空調配管、エレベーターシャフト


・工場、大型倉庫


・輸送機器(コンテナ、船舶等)

などで、CNT温度差発電シートの特徴が活かされると考えられます。


  当社は、2018年度のCNT温度差発電シートの製品化に向けて、デバイス開発・生産プロセス・アプリケーションなどサプライチェーンの各段階におけるパートナーの探索を進めていきます。


図2:サプライチェーン