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自然に学ぶ研究事例

第150回触媒に学ぶ木質バイオマスの化成品利用
生産システム
植物資源
石油由来の化成品原料を バイオマスからつくる
石油をはじめとする化石資源を原料として、 さまざまな製品がつくられ、近代社会は発展してきた。 石油代替の炭素資源開発が求められるなか、 触媒に学ぶ木質バイオマスの化成品利用とは?
木質バイオマス資源とイリジウム触媒
木質バイオマス資源とイリジウム触媒

材木にならない間伐材や小径材は、ほとんどが薪やチップなどにして燃やされており、森林の維持管理のためにも、木質バイオマスの有効活用が切望されている。円内は、開発したイリジウム触媒のエックス線構造解析図。中央がイリジウム錯体であり、周囲に設計した配位子と金属の恊働作業が有効だと考えられる。

石油由来のベンゼンやトルエン、フェノール類などの6個の炭素原子からなる正六角形のベンゼン環を有する芳香族化合物は、プラスチックをはじめ、合成洗剤、医薬品、染料など、さまざまな化成品の原料として利用されています。しかしいま、石油資源の枯渇、地球温暖化対策といった問題に対応するため、石油代替資源として、再生可能資源である木質バイオマスから、そうした原料を生産する研究が活発に進められています。

木の主成分は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンに大別できます。中でもリグニンは芳香族高分子であり、バイオマス由来の炭素を化成品原料として利用することが期待されています。ところが、複雑な構造をもつリグニンは分解や原料へ変換することが難しく、そのほとんどは熱源として利用されているのみとなっています。そこで、有効利用への道を拓く新しい変換技術の開発が求められてきました。そして近年、リグニン中の炭素-酸素単結合のみを水素を用いて切断する画期的な触媒が開発され、注目されているのです。

従来の触媒では、芳香環も還元(水素化)されてしまうことが問題となっていました。新しく開発されたイリジウム触媒は、芳香環を還元せず、選択的に炭素-酸素単結合のみを還元することが明らかになったのです。これによって、芳香族化合物を容易に得ることが可能となります。これまでに、リグニン分解混合物を使った実験がさまざまに行われ、フェノール類の還元などに成功しています。

そして現在、リグニンから直接、芳香族化合物を合成することを目標に、イリジウムに替わる安価で活性の高い金属の探査や配位子の高活性化による触媒の改良研究などが進められています。この技術が実用化されれば、廃棄処分にされていた木質バイオマスを石油代替資源として、本格的に有効活用する道が開けてくるのです。

楠本周平 助教

東京大学大学院 工学系研究科

思いもよらない結果を楽しみたい
学部の4年生のときに研究室に入って、初めて化学の研究に触れたときの衝撃は大きかったですね。わからないことに当たって、実験することによって、初めて結果を知るわけですが、ほとんど上手くいきません。でも、思い通りにいくということは、想像できた範囲内ということになります。思っても見ないことが起きたときに、敏感に反応して、そこを楽しめるようにしたいと思います。 私は、有機金属錯体を用いて、いろいろな小分子の変換反応をずっと研究してきました。実は、フェノール類の炭素-酸素結合の選択的な切断反応の発見自体は偶然だったんです。そして、この反応をアウトプットとして何に利用できるかを考えたとき、リグニンに行き着きました。リグニンの分解、変換は、これから絶対に必要な技術ですから、頑張ってやって行きたいです。

トピックス
木材の組成は、セルロースとヘミセルロース、リグニンを合わせて、全体の約95%と言われています。最も多いのは植物繊維であるセルロースですが、リグニンも20%程度含まれています。セルロースはグルコース(ブドウ糖)が鎖状に長くつながった高分子で、ヘミセルロースは非セルロース系の多糖類で、それぞれ細胞壁を構成しています。また、芳香族高分子であるリグニンは細胞壁の中と細胞間層に分布して接着剤のような働きをしています。セルロースが縦方向の強度、ヘミセルロースが横方向の強度を生み、リグニンがそれらを固めて丈夫な木の幹が構成されていると考えられています。セルロースは主に紙の原料として利用されてきましたが、糖化してバイオエタノールをつくる技術も開発されています。再生可能な木材は、その成分をさまざまに利用し、石油代替原料となる新たな技術開発が求められているのです。
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