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「コア技術」と「融合」を掛け合わせ、
主要7テーマを軸に事業化を推進することで、新事業基盤の早期確立と業績貢献をはかる

代表取締役 専務執行役員
ESG 経営推進部、デジタル変革推進部
および新事業開発部担当
経営戦略部長
上脇  太

当社はこれまでも多くの製品を生み出してきました。
そうした製品を生み出すシーズの源泉や、事業化に至るプロセスを教えてください。

際立つシーズの源を見ると、必ず「技術プラットフォーム」から出ています。しかし、マーケットを意識したシーズアウトでないと、事業を大きく育成させるのは困難です。「技術プラットフォーム」の中からシーズを選択し、マーケットを意識しながら事業化を進める、そうしたプロセスで良い製品が生まれています。例えば、ペロブスカイト太陽電池は「技術プラットフォーム」の封止・塗工技術をベースにしていますが、事業化の可能性を徹底的に社内で詰めたうえで、当社ならではの耐久性・生産性を付加価値として際立たせる形で事業化を進めています。

新事業開発部とR&Dセンターとで、機能や役割をどのように分けていますか。

まずR&D センターの役割は、テーマの初期探索・企画と基礎技術の確立です。数字でたとえると「0」の状態から「1」をつくる部分です。それに対して新事業開発部の役割は事業開発、すなわち「1」を「10」にしていく部分です。事業開発で「10」にした後は、それを「100」にしていく事業推進を各カンパニーが担います。例えばバイオリファイナリー事業は今まさに「1」を「10」にする事業開発フェーズにあります。

2019年度に新事業開発部が創設される前は、「0」から「10」までをすべてR&D 部門が担っていました。しかし研究開発と事業開発では求められるスキルや与えられるミッションが異なりますので、現在の推進体制は、明確な役割分担の下でそれぞれの組織がしっかりとその機能を果たせるようになっていると思います。

社内外での「融合」については、技術探索や新事業開発でどのような取り組みがありますか。

前中期計画では、どの領域で新規事業を探索していくかの羅針盤となる「戦略領域マップ」を作成しました。その「戦略領域マップ」をベースに、経営戦略部内にオープンイノベーションやベンチャーへの出資を実行するチームを結成し、外部の技術・知見へ積極的にアクセスを行っています。また、研究テーマについてもカンパニー間、あるいはカンパニーとコーポレート間とで研究メンバーごと異動させる取り組みを積極化しています。例えば高機能プラスチックスカンパニー傘下にあったマテリアルインフォマティクスや細胞培養資材などのテーマは、R&Dセンターに移管することで、全社的な観点から研究開発を進展させることができています。外部の技術・知見や、それらを有するベンチャーに対する目利き力を高めると同時に、当社の際立つ研究開発力をさらにブラッシュアップしていくことが、「融合」を加速する取り組みの鍵になると思います。

事業化を進める上で、どのように有望なテーマを選定し、進捗管理をしていますか。

テーマの選定に関しては、市場の有望性を判断する「市場軸」と、当社の持つ技術・特許・人的資源がどのように有効に活用できるのかを判断する「攻略軸」の2軸で評点を付け双方共に高得点のテーマに資源を集中させます。テーマ選定後も定期的に市場の有望性や競合状況を分析、当社の攻略性が落ちていないかをスクリーニングし、評点が下がるテーマについては中止することも選択しながら管理しています。実際の進捗管理は、5段階でゲートレビューを実施した上で、事業化へと進めていきます。

新事業創出や事業化・収益化に向けた理想的な推進体制を教えてください。
またどのような人材が必要とされるのでしょうか。

テーマを創出して「0→1」「1→10」「10→100」と段階を分けて進めていく現在の推進体制はとてもうまく機能していると考えていますが、どの段階においても共通して必要性を感じるのが事業観のある人材です。事業観とはすなわち、「技術軸」と「市場軸」の双方からテーマにアプローチできるセンスであり、多様な技術を担う当社の人材に、事業化の挑戦を通じて事業観を養えるよう育成していけたらと思います。2023年度に社員の事業アイデアの事業化を支援する仕組みとして社内起業制度を立ち上げましたが、応募件数が当初目標の100件を優に上回る200件近く集まり、事業化を意識して考えている人材が多いことに手ごたえを感じています。アイデアを事業として実現しようとする過程で事業観も養われますので、こうした人材基盤は、将来的な新事業の創出に向けても重要ですし、また仮に事業化が実現しなくても、事業化を真剣に考えて向き合った人材が増えること自体が、新事業創出の基盤を強化することにもなると思います。

新事業の創出に向けては、取締役会ではどのように議論されていますか。

取締役会では少なくとも年2回はR&Dについて議論を行っており、ペロブスカイトやバイオリファイナリーなど全社を挙げての重要テーマは必ず年に1回は進捗報告と共に方向性の確認を行っています。事業の有望性については厳しい視点で議論がなされていますが、新たな挑戦に対しては取締役会全体としてとてもサポーティブな姿勢で捉えており、新事業創出を全面的にバックアップしていく体制が整っていると感じます。

ここからは、中期で事業化を目指す主要7テーマについて個別に教えてください。

航空機分野展開では、当社は2019年にAIM Aerospace Corporationを買収し、航空機分野への本格進出を決めました。航空機需要はコロナ禍で激減したものの、現在は徐々に復活の兆しが見えつつあり、中期計画では、M&Aの当初の目的を実現するために本格的に動いていきます。当社の強みである軽量素材のCFRP(軽量高強度材)加工技術をベースに、航空機やドローンなどの飛行体事業の拡大を進めます。また新たなエアモビリティ市場への参入の足がかりとして、2023年3月には、eVTOL(電動垂直離着陸)企業の独Volocopter 社にも出資しました。航空機分野での良きパートナーとなれるよう事業を育成していきます。

次世代通信部材の領域では、今後、5G や6G など、大容量の高速通信へ進化していきます。当社がコーポレート・ベンチャー・キャピタルをきっかけに生み出した「透明フレキシブル電波反射フィルム」は、室内の閉じられた空間の中で適切に設置することで、直進性の高い通信性能を空間内で十分に発揮させるのに役立ちます。当社の反射フィルムが持つ競争力を武器に、電波環境の設計サービスも視野に、通信関連企業の良きパートナーとして、5G・6Gの環境構築のための課題を解決し、事業拡大を推進していきます。

スマートシティ戦略では、近年、住宅事業の強みを生かし、社内外の知を結集した「まちづくり」を進めてきました。現在、20を超える「まちづくり」プロジェクトを全国で展開しています。当社が進めてきたエネルギーの自給自足やスマート・アンド・レジリエンス(安心・安全・サステナブル)といった「まちづくり」は、購入いただいたお客様に「安心感」として高くご評価いただいています。今後は、安心して暮らせるまちをベースに、積水化学グループ総力を挙げて、当社のさまざまな事業を組み合わせることで、安心、健康、快適、便利をさらに高度化し、まちをより発展させていくスマートシティ戦略を展開していきます。例えば、イノベーティブモビリティ領域との融合を通じて、クルマと家との融合で利便性のさらなる向上をはかるほか、ライフサイエンス領域との融合を強化することで、利便性や安心性に加えて健康にも配慮された、ご高齢者の方々も住みやすい「まちづくり」を推進していきます。

アドバンストライフライン領域ではインフラ材の海外展開をはかります。これまで国内で普及させてきた管路更生システム「SPR工法」や合成木材FFU製「まくらぎ」、ポリエチレン管などを、今後は海外市場のインフラの更新需要を取り込みながら、グローバルにインフラの強靭化に寄与していきます。すでに欧米を中心に、鉄道枕木の更新需要で事業が成立しつつあるほか、「SPR工法」についても海外での下水管の更新需要を取り込んでいます。またプラント管材も海外で建設予定の半導体工場向けに多くの事業機会を見出しており、海外現地企業のM&Aも視野に入れながら、アドバンストライフライン領域における海外比率の向上をはかります。各国によって規制や特性が異なりますので、工事や設計への展開ではなく、材料の強さで勝負していきます。

医薬CDMO新領域では、これまでのCMO(原薬製造受託事業)を通じて構築した製薬企業との信頼関係をベースに、「D(開発)」の基盤を整えながら、製薬企業の新薬開発の初期段階からパートナーとして入っていく事業形態へと転換をはかります。低分子化合物合成などで「D」の基盤を整え、当社の強みを付加して中分子・高分子といった高付加価値の医薬領域への進出に向けた足掛かりとしていきます。当社は中分子領域ではペプチドに対する合成技術をすでに有しており、高分子領域でも英国Sekisui Diagnostics 社にタンパク質の合成技術を有しています。これら技術を強みに、低分子医薬向け原薬・中間体の生産能力を増強すると同時に、タンパク質医薬向け原料のCDMO化を進めていきます。さらにその先の再生医療分野においても、当社の技術を活用しながら再生医療の普及やコストダウンにつなげていきます。細胞培養資材を、従来の動物由来からケミカル材料でも展開できるようにすることで、低コスト化と品質の安定化につながるため、まずは化学合成足場材などの資材を軸に、その強みを活かして再生医療分野に参入していきます。

ペロブスカイト太陽電池の開発は、現状の太陽電池の発電効率が15%と、シリコン太陽電池の水準である18~20%に近い水準まで到達してきています。当社の特長は、屋外設置時の耐久性が約10年あることに加え、現状30センチ幅をロール・ツー・ロールで製造することによる高い生産性です。シリコン製太陽電池並みの発電効率の実現、約15年程度の耐久性、そして最終的には1メートル幅のロール・ツー・ロールでの製造が実現できれば、事業化に向けた準備はほぼ整います。当社が最も得意とするのは、ペロブスカイトの材料をしっかり製造してパートナーに供給する部分です。設置場所によっては独特の施工・設置方法が求められますので、発電のための施工・設置に優れたパートナーを見つけ、施工方法と設置方法を開発していくことも、ペロブスカイトの高度化と共に重要と考えています。

バイオリファイナリーに関しては現在、10分の1の実証プラントで安定稼働とコスト削減、効率的な生産に向けた取り組みを進めています。この中期計画期間中に実証実験を終え、次中期計画以降は商用化フェーズに入ります。現在検討しているビジネスモデルは、ゴミ処理施設や産業廃棄物処理施設の運営企業と組み、ゴミ処理施設の隣にエタノール設備を設置して、ゴミ処理施設から出たゴミをエタノールに変換していく形です。これまでのようにゴミを燃焼させて温室効果ガスを排出するのではなく、ゴミをまるごとエタノールに変換するという資源循環のプロセスは、環境視点でも大きな価値があると考えており、このエタノールをブランド化して販売していきます。バイオリファイナリーもペロブスカイト太陽電池同様、外部パートナーとの連携・融合が重要です。

新事業開発部の担当役員としての役割と、上脇専務にとっての挑戦を聞かせてください。

新事業開発部の担当役員としての役割は明確です。バイオリファイナリーやペロブスカイト太陽電池なども含め、大きなテーマを確実に事業化する事業開発が私の役割です。

「攻略軸」も「市場軸」も有望でありながら、事業開発過程では、困難な課題で苦しむことも多々あります。取締役会をはじめ経営が全社を挙げてバックアップ体制にあることは、大きな事業へと成長させる上での重要な要素だと考えています。一方で、事業開発はうまくいかないことがあって当たり前ですから、悪い情報が水面下で眠ってしまうことのないよう、失敗をとがめず、悪いニュースほど早めに報告が上がる風土を醸成していくことが重要です。そして課題が見つかれば、その克服に向けて皆で一生懸命解決方法を探ることを繰り返す、そうしたことがスムーズに行われる組織にしていくことは、私にとっての大きな挑戦です。私の最重要ミッションは、今の7つの主要テーマの事業化ですが、当社創業時には、「7人の侍」と言われるイノベーターが活躍したように、社内起業制度などを通じてその遺伝子を復活させ、社内にイノベーションの風土を醸成していきたいと思います。