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自然に学ぶ研究事例

第17回酵素触媒に学ぶバイオポリマー合成
材料・デバイス開発
自然のメカニズム
酵素触媒が導くグリーンポリマー
細胞の合成や破壊という、生命の化学反応を司る酵素は悪玉を善玉に変えてしまうパワーを秘めている。 安全・安心、健康、そして美容をも実現する酵素触媒に学ぶものづくりとは?
漆(うるし) [学名] Rhus verniciflua
漆(うるし) [学名] Rhus verniciflua

漆の木は、傷つけられるとその傷口を保護するために樹液を分泌す る。空気に触れた樹液中のウルシオールが、酵素の働きによって酸化して固まり、傷口を塞ぐ。数千年前の縄文遺跡から、漆製品が次々と出土しているが、樹液 が固まることに気づいた先人たちが、接着剤として使い始めたのではないかと考えられている。 写真は、漆の木に傷をつけ、樹液が固まる前にすくいとって漆を採取する「漆掻き」の様子。 写真提供:(社)林原共済会「漆の館」

およそ100年前、世界で初めてフェノール樹脂(ポリマー)が開発され、人工プラスチック(合成樹脂)が誕生しました。プラスチックは金属と比べて重さが10分の1程度と軽く、安価で、耐熱性・耐久性などの優れた機能をもち、しかもいろいろな形に加工しやすいことから、さまざまな分野で活用されてきたのです。しかし従来、フェノール樹脂の製造には、シックハウスの原因となるホルマリンが用いられており、ホルマリンを使わないフェノール樹脂の開発が求められていたのです。そこで着目されたのが、天然のフェノール樹脂“漆”でした。

木製品の表面に漆の樹液を塗って丈夫に、美しく仕上げられる漆器。その樹液の主成分であるウルシオールは、もともと“かぶれ”の原因となる物質ですが、天然酵素(ラッカーゼ)の働きによって常温で硬化します。固まった漆は、水や酸、アルカリ、熱にも強い保護膜となり、かぶれることもなくなります。酵素を使い、漆のような優れた樹脂をつくろうと、精密合成技術の研究がスタートしたのです。

こうして開発された酵素法フェノール樹脂は、ダニアレルゲン活性を抑える効果が、これまでにないほど高いことが明らかになりました。タンパク質であるダニアレルゲンを取り込んで変性させ、その作用をなくしてしまうのです。そして、エポキシ樹脂(接着剤)に替えて酵素法フェノール樹脂を使うと、耐熱性が上がり、接着の性能が良くなることも証明されています。また、酵素を使ってカテキンを組み込んだポリマーは、カテキンの抗酸化作用がアップし、コラーゲンの分解を抑えることから、機能性食品や化粧品への利用が期待できます。酵素を触媒とすることで、従来とは異なる構造の樹脂が生まれ、もともとの機能を高めるだけでなく、新しい機能を発現させることが可能となったのです。

環境に、人に優しい高機能ポリマーの研究は、さらに再生可能な資源の有効利用へと発展しています。たとえば、大豆油などの植物油からつくる生分解性ポリマーなど、原料も製造法もバイオの力に基づく、グリーンポリマーの時代は、確実に近づいていると言えるでしょう。

宇山 浩 教授

大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻

グリーン、バイオ、ナノの融合で天然資源を高分子新素材に
再生可能資源を活用し、生体触媒作用を利用することで、21世紀に求められる新しい高分子材料を設計しています。そして、そこにナノテクノロジーを融合さ せて構造を精密制御すれば、さらなる高性能・高機能化が実現できるでしょう。現在は、酵素触媒重合のほかに、植物油を使ったナノコンポジット材料の開発、 バイオポリマーからナノファイバーをつくる研究なども進めています。ナノファイバーは表面積が大きいため分解が早いのが特徴ですから、生分解性の評価に利 用してもらうような提案も行っています。 石油資源の問題、二酸化炭素の排出抑制といった視点からも、環境系のグリーンポリマーを日本で育てていくことは、高分子研究者としての社会的責任だと考え ています。

トピックス
樹脂はそもそも、漆、松ヤニなど樹皮から分泌される固形物質のことを指しており、塗料やニスなどに利用されてきました。土に埋もれた木の樹脂が長い年月をかけて化石化した琥珀(こはく)もまさに天然樹脂で、その美しさから装身具としても珍重されています。そして植物に限らず、ラックカイガラ虫という害虫の分泌物からつくられるシュラック(セラック)樹脂は、かつてはレコード盤の材料として、また、食品や薬のコーティング剤として用いられてきました。そうした天然樹脂の機能を工業利用しようと開発されたのが、合成樹脂、すなわちプラスチックです。 グリーンポリマーという考え方は、改めて、天然素材の機能やその合成の仕組みなどに学び直して、人にも環境にも優しい新しいポリマーをつくっていこうという取り組みなのです。
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