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自然に学ぶ研究事例

第107回昆虫に学ぶ接合技術の開発
材料・デバイス開発
昆虫資源
空気の泡を利用して水中を歩く
さまざまな製品において、重要な要素技術となる接着剤。 一方、リサイクルの推進には、容易にはがれることも求められている。しっかりとした接着と剥離の繰り返しを可能にする、昆虫に学ぶ接合技術の開発とは?
ハムシと足裏の構造
ハムシと足裏の構造

写真上段はハムシの成虫で、体重はおよそ13.5mg。写真下段の右側は、葉っぱの上の足裏の剛毛を撮影したもので、下部の凹凸が葉っぱの表面。細かく分かれた毛によって凸凹のある表面でもぴったりとくっつくことができる。また、先端の形状が異なる3種類の剛毛(丸窓の写真3枚)が生えていることも確認された。

循環型社会の構築に向けてリサイクルを促進するために、製品の接着部分を簡単にはがす技術が求められています。ところが、安全性や製品寿命の向上などのために部品同士をしっかりと付けることを目的とすると、廃棄しようとするとき、はがすのが難しいためリサイクルが困難となるのが現状です。一方、自然に目を向けてみると、接着と剥離というメカニズムがさまざまに存在しています。なかでも注目されているのが、昆虫の足です。たとえばヤモリが天井や壁に張り付いて逆さまになって歩くように、昆虫はさまざまな所を自在に歩くことができます。これは、接着と剥離という行為を容易に繰り返しているからにほかなりません。

ハムシやてんとう虫などの足裏を見ると、細かい剛毛がたくさん生えていることが観察できます。また、毛の間には分泌液が出ていて、重力や上下左右に関係なく細い空間を液体が上昇したり下降する毛細管現象や分泌液の粘性力により、葉っぱなどの表面にくっついていることもわかりました。さらに研究の結果、水の中でも歩けることを発見しました。足裏の毛の間にびっしりとついた空気の泡が水をはじき、足裏をしっかりと固定しているのです。

異なる環境でハムシの牽引力を測定したところ、接触角100度以上の疎水性の表面では、空気中でも水中でも自らの体重の約40倍で引く力があることが明らかになりました。小さな体が水に浮くことなく、しっかりと接着しながら水中を歩くことができるのです。これにヒントを得て、「泡を利用した水中接着機構」が開発されました。シリコンラバーを用いて足裏の毛状構造を模倣したものです。おもちゃのブルドーザーにこの水中接着機構をつけて実験したところ、水槽の壁面に難なく固定することに成功しました。

化学物質を使わず、接着面の構造と空気の泡を利用するこの方法は、接着と剥離を容易に繰り返すことができ、環境負荷のない新しい接合技術としてさまざまな分野への応用が期待されているのです。

細田奈麻絵 グループリーダー

物質・材料研究機構 環境・エネルギー材料部門

生物をモデルにした自然に優しい技術開発を!
接着と剥離の研究をするなかで、最初に目についたのは植物の葉がはらりと落ちることでした。落葉系の植物には、葉っぱを落とすための離層というメカニズムがあることを知りました。そして、虫たちが歩く仕組みも接着と剥離の繰り返しだと気づいたのです。生物の技術のすごいところは、あいまいな条件で機能することです。これまで人間は、精緻に条件を整えて高機能なものづくりを追求してきました。たとえば接着剤も高精度がゆえに、容易にははがすことができません。生物の場合は、なんとなくくっつけばいいというような、環境のなかで柔軟なものづくりをしているんですね。 生物に倣う技術開発は、生物学と工学などの異分野融合研究で、話を聞くだけではわからないことも多いです。実験も、従来とはまったく違う方法だったりしますが、とにかく、自分で手を動かしてやってみるということが重要なことだと思います。

トピックス
生物に学んだ接着技術は、すでにいくつか形になっています。たとえばマジックテープは、犬の毛にからみついたゴボウの実の構造にヒントを得て開発されたものだと言われています。多数の鉤(かぎ)がついたフックテープと輪っかがついたループテープを重ねることでピタッとくっつき、ひっぱると容易にはがすことができる面テープが誕生したのです。また、天井や壁に張り付くヤモリの足裏には、ヒトの毛髪の10分の1ほどの細い毛が50万本も生えていて、さらにその毛の先端が無数の突起に枝分かれしています。その突起のひとつひとつが天井などの面に接することで、張り付くことができるのです。このような構造に倣い、カーボンナノチューブを利用して強い接着性とはがし易さを合わせもつテープなども開発されています。
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