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【Column】世界卓球で58年ぶりの劇的勝利を呼び込んだ“毎日の積み重ね”/早田ひな

August 31, 2023

世界卓球で58年ぶりの劇的勝利を呼び込んだ“毎日の積み重ね”/早田ひな|SEKISUI×SPORTS「挑戦のTASUKI」|積水化学工業株式会社

様々な技術習得に取り組んできた結果、効果が出た一つのこと

今年5月、南アフリカ・ダーバンで行われた世界卓球選手権大会で、早田ひな選手が見事、女子シングルスの銅メダルを獲得。準々決勝で世界ランキング3位(当時)、中国の王芸迪選手を破っての銅メダル獲得です。日本勢が女子シングルスで中国選手を破ってメダルを獲得したのは、1965年に深津尚子さんが優勝して以来、実に58年ぶりのことでした。

半世紀以上も誰も成し得なかったことをやってのけた早田選手。その偉業にはどんなドラマがあったのでしょうか。

早田選手は第1ゲームを取られたものの、第2、第3ゲームを連取し、さらに取られて取り返すといった、まさにシーソーゲーム。これまで一度も勝ったことのない王芸迪選手に対して、完全に互角でした。

スコアだけではなく、その内容もこれまでの日本選手vs中国選手とは違いました。これまでは長いラリーになると分が悪い日本選手は、速めに決め球を打ってミスをさせられる傾向がありました。しかしこの試合での早田選手はそうした無理をせず、力強く確実なラリーでジワジワと得点を重ねました。それはかつて早田選手が語っていた「何もされてないのに点を取られる」という中国選手の卓球のようでした。

特に卓球ファンをうならせたプレーが、あえて遅いボールを入れることで相手のミスを誘った場面でした。遅いボールは、使う場面を間違えれば相手に簡単に打ち込まれます。よほどの自信と正確なコントロールがなければ使えません。

「中国選手に勝つために、遅いボールだけではなくて、いろんな回転を操ったり、いろんな技術に取り組んできました。王芸迪選手との試合では、それを一つ一つ出していって、その中の一つがうまくいきました」

世界一の中国を破るため、秘術を尽くした技術の一つが、あのボールだったのです。

究極の駆け引きをお互いに楽しんでいた

そして迎えた最終第7ゲームは、大変な競り合いとなりました。卓球は1ゲーム11点ですが、10-10になると、どちらかが2点差をつけないと勝負が決まりません。取って取られてが続き、スコアはとうとう19-19。力と力、技と技、そして気持ちと気持ちのぶつかり合いです。見ている方も緊張するほどでしたが、早田選手はどんな心境だったのでしょうか。

「戦術どうこうというよりは、どこで勝負に行くのか行かないのかという、究極の駆け引きの中で、お互いにその場面を楽しんで試合をしていた感じです。試合を楽しんでいる自分でいたい、というのがありました」

その言葉どおり、早田選手は試合中もときおり笑みを見せました。しかし、こうして試合を楽しむことができるのは、それまでの膨大な努力という裏付けがあってのことです。

そして、とうとう最後の瞬間がやってきました。スコアは20-19。早田選手のバックハンドのボールが王芸迪選手のフォアサイドを抜いた瞬間、早田選手の目には涙が溢れ、顔を覆って号泣しました。9回もマッチポイント(あと1点で勝敗が決まる場面)を凌いでの劇的勝利です。

「それまで、どうやったら中国選手に勝てるのか考えながら、一つ一つ自分の卓球を変えて、精度を上げてきました。その毎日毎日、積み重ねてきたことが、一気にフラッシュバックしました」

大舞台でもひるまずに力を発揮すること

卓球に限ったことではありませんが、スポーツの技術習得には、地道な反復練習が必要です。ましてトップ選手ともなれば、すでに相当な技の精度を持っていますから、それをさらに向上させるのは、気の遠くなるような練習が必要だったでしょう。早田選手は自身で「決して器用な方ではない」と言いますから、なおのことです。しかし、そのようにして身につけた技術だからこそ、今回のような大舞台でもひるまずに力を発揮することができたのでしょう。

日本選手がどうしても乗り越えられなかった中国の壁。58年ぶりにそれを乗り越えた早田選手ですが、続く準決勝では世界ランキング1位、同じく中国の孫頴莎選手に完敗しました。これでも、まだまださらに上がいるのです。

常に努力を重ね、前進することを諦めない早田選手。その成果は着実に彼女の力となり、2023年7月のWTTスロベニア大会では、その孫頴莎選手を今度はフルゲームまで追い詰めました。

まだまだ、早田選手の進化は未来へと続いていきます。