ESG経営を支える基盤

人権尊重

基本的な考え方

積水化学グループは、自らの事業活動において影響を受けるすべての人々の人権擁護を責務として認識しています。また昨今、国内外で人権に関する法制化・ルール化が進み、人権問題に対する社会からの注目度が高まっている中、持続可能な経営基盤を強化するためには、グループ従業員に限らず、ビジネスパートナーを含む多方面のステークホルダーの人権尊重に取り組むことが必要であると考えています。
このような考えのもと、積水化学グループは、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」をベースに、当社に即した人権取り組みを以下の通り整理しています。2019年5月に策定した人権方針に基づいて、人権影響評価・事業への統合・報告・苦情処理メカニズムの構築を進めることで、当社の事業活動が引き起こす可能性のある人権リスクの特定・対処・是正に努めていきます。
現中期経営計画では、コーポレート関係部門の責任者による人権部会を立ち上げ、コーポレート部門が中心となって人権方針の浸透、当社グループ内および取引先におけるデューデリジェンスの実施、苦情処理メカニズムの構築をそれぞれ進展させてきました。
次期中期経営計画では、これら「ビジネスと人権」の取り組みを着実に進化させるとともに、カンパニーやRHQ(地域統括会社)における実行力強化にも取り組んでいきます。

  • 11-01

積水化学グループの人権取り組み全体像

目標
現中期経営計画の目標 結果
積水化学グループ内における人権デューデリジェンスの
継続的な実施
〈2020年度〉
・環境・ライフラインカンパニー東日本積水工業株式会社にて人権インタビュー実施
〈2021年度〉
・グローバル規模の人権リスクアセスメント(アンケート)実施
〈2022年度〉
・上記リスクアセスメントによって課題が抽出された拠点(6拠点)への是正計画立案、5拠点にて対応実施済、残り1拠点は是正計画実行納期を23年度に設定
・環境・ライフラインカンパニー積水塑膠管材股份有限公司(台湾)にて人権インタビュー実施
・住宅カンパニー近畿セキスイハイム施工株式会社にて人権インタビュー実施
取引先に対するガイドラインの周知およびアンケートに
よる潜在リスクの抽出
〈2021年度〉
・調達ガイドライン(サプライヤー行動規範)を策定し、ガイドライン遵守の署名を国内外重要お取引先の約61%から取得
・調査対象会社(資本金1億円以上、売上3000万円以上)の67%からアンケート回答受領
〈2022年度〉
・アンケートで抽出したハイリスクサプライヤー候補13社へのヒアリングを実施
・上記の内、海外1社と協同でリスク低減活動を推進
人権教育の一環として
「ビジネスと人権」
e-learning実施
・国内外グループ会社へ8言語でe-learning実施
〈2020年度〉
・国内グループ回答率:64%
〈2022年度〉
・海外グループ回答率:75%
苦情処理メカニズムに向けた社内通報制度(S.C.A.N)の
グローバル体制完備
・積水化学グループの海外展開は豪州を除き通報窓口設置を完了(豪州は23年度を予定)
体制

広範な領域にわたる人権課題に対して組織横断的に対応を強化するべく、2022年度にはサステナビリティ委員会の下に人権部会を発足させました。人事部担当執行役員を部会長、コーポレート各専門部署長を部会員とし、人権に関する全社的な方針策定の役割を担うとともに、人権部会に紐づく4つのワーキンググループでは、具体的な施策を立案・実行します。
人権部会および各ワーキンググループにて定まった方針や施策をコーポレート・カンパニーの各該当部署と共有し、事業拠点レベルまで落とし込むことで、全社で人権の取り組みを推進していきます。2022年度は人権部会を12回開催しました。

  • 11-02
主な取り組み

人権デューデリジェンス(積水化学グループ内)

人権デューデリジェンス※1の仕組み構築に向けた取り組み概要
積水化学グループは2018年11月より、人権デューデリジェンスの仕組み構築に向けた取り組みを開始しました。2022年度までに実施した主な取り組みは以下の通りです。

  • 2018-2019年度:
    専門機関(Verisk Maplecroft 社※2)に依頼し、主要事業における潜在的な人権リスク分析およびその結果にもとづいた社内ヒアリングを実施。
  • 2020年度:
    国内生産事業所における人権インタビューを実施。
  • 2021年度:
    当社グループが所在する全エリアのマネジメント層および選定された事業所の一般従業員(間接雇用含む)に対して、グローバルでアンケート形式の人権リスクアセスメントを実施。
    • -
      人権リスクアセスメント実施方法:
      ・アンケート形式(マネジメント層向けと一般従業員向けの2種類)
    • -
      対象者:
      ・当社グループが所在する全エリア(北中米、欧州、アジア、オーストラリア)のマネジメント層(生産事業所44拠点)
      ・2018年に実施した潜在的人権リスク分析および有識者ダイアログの結果、リスクが高いとされたタイ、中国、インドの一般従業員および日本国内の外国籍従業員(一般従業員、外国籍従業員ともに間接雇用者を含む)(生産事業所21拠点)
    • -
      ねらい:
      ・網羅的に調査を実施し、マネジメント層および一般従業員層の両方の意見を集約することで、優先的に取り組む人権テーマを選定すること
    • -
      結果:
      ・調査範囲においては危機的・即時的対応を要する人権問題は発見されなかったものの、さらなる状況調査が必要とされる優先的人権課題として、外国籍従業員の就労環境、適正賃金、宗教的な慣習の尊重、採用や昇進時の不公平感が抽出された。
  • 2022年度:
    上記リスクアセスメントによって抽出された課題の是正および国内外2拠点における人権インタビューを実施。
  • 人権デューデリジェンス: 自社の事業活動において、人権に負の影響を与える可能性(人権リスク)がないかを分析・評価して特定し、もし可能性があれば、その影響を防止または軽減するための仕組みをつくり、対処する継続的なプロセス
  • 人権・経済・環境リスクについての世界的視野と知見を有するリスク分析・リサーチ企業

グローバル人権リスクアセスメントに基づいた人権リスク特定・是正の実施
2022年度は、上記の人権リスクアセスメントによって課題が抽出された国内外グループ会社(全6拠点)に対して個別に状況確認を行いました。その結果、5拠点においては課題に対する是正計画を策定のうえ、対応を実施しました。(是正計画例:国内グループ会社で勤務する外国人労働者の雇用契約理解促進のために、労働者の母国語による雇用契約書作成を推進)。残り1拠点については、是正計画実行納期を2023年度に定めているため、引き続き状況確認を行っていきます。

海外生産事業所にて外国籍従業員を対象とした人権インタビューを実施
海外有識者との個別ダイアログにて、海外グループ会社の移住労働者が人権侵害を受けていないか調査していく必要があるとの指摘を受けたこと、また2021年に実施した人権リスクアセスメントにて、台湾に所在するグループ会社に多くのベトナム人移住労働者の勤務を確認したことにより、2022年度にはグループ内移住労働者の実際の労働環境を調査するためにベトナム人従業員へのインタビューを行いました。

  • 対象
    環境・ライフラインカンパニー積水塑膠管材股份有限公司で勤務するベトナム人従業員
  • 実施方法
    • 1)
      事前調査として、外国人労働者の威厳ある移住に関する国際基準「ダッカ原則」に基づいたアンケートをベトナム人従業員に対して実施。
    • 2)
      3-4名のグループに分かれた従業員に対して経済人コー円卓会議日本委員会が、各1時間ほどの事前アンケートに基づいたインタビューを実施。
    • 3)
      ベトナム人従業員が共同で暮らしている住居視察によって住環境を確認。
  • 調査内容
    強制労働、結社の自由、団体交渉権、平等な報酬、差別の禁止等
  • 結果
    今回のインタビュー調査において、ベトナム人移住労働者の人権への著しい負の影響は見いだせなかったものの、給与明細書・工場内案内文の多言語化、住居費の負担軽減、従業員向け通報制度のアクセス確保など優先的に取り組むべき課題が抽出されました。これらの課題に対しては、積水塑膠管材股份有限公司が是正計画を策定し、対応を行いました。
  • 企業のサプライチェーン内の人権リスクを低減する取り組みに対する支援実績が豊富であり、国内外のさまざまなCSRイニシアチブ団体とのネットワークを有する特定非営利活動法人

国内施工現場にて外国籍従業員を対象とした人権インタビューを実施
一般的に日本国内の外国人労働者の労働環境に関する人権リスクの高さについて、頻繫に国内外から指摘されていることから、2020年度に実施した国内生産事業所へのインタビューに引き続き、2022年度は住宅カンパニーの施工会社に対して従業員インタビューを含む、外国人雇用管理アセスメントを実施しました。

  • 対象
    1)住宅カンパニー近畿セキスイハイム施工株式会社で勤務する外国籍従業員2名
    2)上記外国籍従業員の人事労務管理担当者
  • 実施方法
    • 1)
      人事労務管理担当者に対して、人権に関する設問40項目・342問にわたる事前アンケート・およびアンケート結果に基づいたインタビューを実施
    • 2)
      外国籍従業員2名に対してインタビューを実施
    • 3)
      アセスメントの結果、第三者機関より指摘を受けた事項について是正対応を実施(是正内容例:技能実習生や特定技能人材の採用時に、監理団体、登録支援機関が認定機関であるかの確認を必ず行う)。
    • 4)
      アセスメントの結果「適正A」と判定・外国籍社員を適正に雇用する優良事業者として認められ、外国籍社員適正雇用事業者認定証を取得。
  • 結果
    「労務」「働きがい」などの項目で高い評価を得て、外国人雇用における採用や就労時の対応は適正であると判断されました。一方で、「人材マネジメント」の項目では、入社時や安全面での体系化された教育や、日本語教育の提供など外国人材のキャリア形成体制はある程度整備されているものの、中長期的な就労を見据えた育成、キャリアパスの明示に課題があると指摘を受けました。今後はグループ会社のみならずサプライチェーン上の施工会社に対しても、外国籍従業員管理に関するアセスメントを展開していく予定です。
  • 外国人材紹介、外国人雇用支援、日本語教育支援事業を展開する株式会社One Terraceが認証機関を務め、外国籍人材が適正に雇用されているかを確認するためのアセスメント

人権デューデリジェンス(取引先)

サプライチェーン全体で人権問題に配慮
今までは、直接の取引先(1次)に対してCSR調達調査を実施してきましたが、2次・3次以降のサプライヤーを含むサプライチェーン全体に当社グループの方針が理解されるように、2021年度は調達ガイドライン「積水化学グループ持続可能な調達ガイドライン(サプライヤー行動規範)」(以下本行動規範)を策定。日本語のほか、英語と中国語の翻訳版を作成しました。本行動規範は社外有識者の意見を聞き、さらに国連グローバルコンパクト10原則、ビジネスと人権に関する指導原則、および積水化学人権方針に沿った調達ガイドラインとしています。
取引先の皆様には本行動規範を2次・3次サプライヤーにも展開するようお願いするとともに、本行動規範達成に向けた取り組みを当社とともに実施していただけるようガイドライン遵守の署名を求め、国内外における重要取引先の約61%から同意を得ました。

サプライチェーンにおける人権デューデリジェンス実施内容
2021年度は、持続可能な調達の推進強化に向け、上記「本行動規範」の遵守状況や到達状況を評価・確認できるような内容へとアンケート調査を大幅に見直し、さらにグローバル共通施策の迅速な対応に向け、グローバル一斉に調査を実施しました。結果、調査対象の取引先67%から回答を受領しました。
2022年度は、上記アンケート調査で自己評価が低かった13社を対象に、潜在リスクの有無を確認する目的で直接ヒアリングを実施し、状況を確認。その結果、12社はリスクが低いと判断し、残り1社は協同でリスク低減するためにコンサルタントも交えての活動を実施しています。
その他、採掘現場における人権侵害(児童労働など)の恐れのある鉱物や、森林破壊により先住民の権利や労働者の権利を脅かす恐れのある木材についても、調査内容の見直しやガイドラインの制定等により人権を尊重した持続可能な調達実現に向け、確認を実施しています。詳細については、「責任ある調達」に記載しています。

人権教育

グループ従業員向けの人権研修
積水化学グループは、人権に配慮した経営を行うため、従業員に対して人権をテーマとした研修や教育を行っています。特に入社や昇進などの節目に実施される研修に、強制労働、児童労働、ハラスメントなど、人権に関わる問題について意識を高める内容を取り入れることで、人権尊重の重要性および人権方針の周知を進めています。
2020年度からは国内外従業員向け人権教育の一環として、社内イントラネットを活用した「ビジネスと人権e-Learning」(日本語版、英語版)を開始。2022年度には、ドイツ語、スペイン語、オランダ語、中国語、タイ語、インドネシア語版を作成し、多言語化を進め、当社グループが操業する全エリア(北米、ヨーロッパ、アジア)の従業員へ展開しました。これらの研修・教育を通して、人権尊重の重要性および人権方針の周知を進めています。
また、全グループ従業員を対象に提供している「コンプライアンス・マニュアル」には、人権尊重と差別の禁止、ハラスメントの防止、個人情報の保護などについて記載しており、人権・コンプライアンスに関する広範な内容の理解を従業員に促しています。

積水化学グループ「人権週間」の実施
従業員が人権を尊重した行動がとれるよう啓発する機会を設けるべく、2022年度からの新たな取り組みとして積水化学グループ「人権週間」(世界人権宣言が採択された12月10日に合わせて、12月4日~10日の1週間と設定)を実施しました。
初回の取り組みとしては、社長自らがグループの人権尊重への姿勢を示した「社長メッセージ」を発信するとともに、従業員一人ひとりが同僚や取引先の皆様、お客様など、日々の業務で関わりのある人々の人権を侵害していないかどうか問いかける「人権ポスター」を掲示。社長メッセージは11ヶ国後に翻訳、人権ポスターは日本語版・英語版を作成し、積水化学グループが操業する全エリアへ展開しました。

  • 11-03

苦情処理メカニズム

積水化学グループは、自らの事業活動において人権への負の影響が生じた場合に是正に向けて適切な対応をとるべく、内部通報制度、取引先通報窓口、お客様相談室、サステナビリティに関するお問い合わせ窓口など、ステークホルダーの声を拾い上げるさまざまな仕組みを整備しています。
グループ従業員向けには、2002年に社内通報制度「S・C・A・N(セキスイ・コンプライアンス・アシスト・ネットワーク)」を構築し、当社グループの全従業員が利用できる仕組みを運用しています。グローバルでは海外主要エリアへの通報窓口の設置を進め、豪州を除くすべてのエリアに展開を完了しています。豪州は2023年度に通報窓口の設置完了を目指します。
また、取引先向けには、2015年度から積水化学グループ各社と継続的に業務上の取引をしている日本国内の取引先の役員・従業員が使用できる通報・相談窓口を設置・運用しています。
今後は、外国籍従業員、海外お取引先等、より幅広いステークホルダーがアクセス可能な仕組みを整備するべく、社内通報窓口の多言語化およびさらなる周知、海外取引先通報窓口の設置等に取り組んでいきます。

ステークホルダーエンゲージメント

人権部会にて、社外有識者とのダイアログを実施
人権部会を構成する取締役執行役員人事部長、コーポレート各専門部署長が、「ビジネスと人権」に関する社会要請と当社グループの取り組みについて、社外有識者(経済人コー円卓会議日本委員会)と意見交換会を実施しました。
意見交換を通して有識者から、人権に関する企業への社会要請についての最新動向を把握するとともに、積水化学グループの人権取り組みについての意見・今後どのように活動を発展させていくべきかのアドバイスを受けました。

外務省主催「日本企業における人権デュー・デリジェンスの導入促進セミナー」にて人権取り組みを紹介
積水化学グループは、外務省が主催する「『ビジネスと人権』に関する行動計画の実施を通した日本企業における人権デュー・デリジェンスの導入促進セミナー」にて、これまでに実施した「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいた活動を、日本企業の人権取り組みの一事例として紹介しました。セミナーで表明した通り、今後も従業員、お取引先、お客様、地域社会等、さまざまなステークホルダーとの協働を通して、当社グループが及ぼす人権に関する負の影響の未然防止・是正に取り組んでいきます。

情報開示

英国現代奴隷法への対応
積水化学グループは、英国で施行された2015年英国現代奴隷法第54条第1項に基づき、自らおよびそのサプライチェーンにおける奴隷労働その他の隷属状態下での労働ならびに人身取引を防止すべく取り組んでいる内容について、取締役会で決議した声明を開示しています。
英国以外の国・地域の人権に関する法規制についても、当社グループが適用対象となるものに関しては、適宜対応を行っていきます。