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【制度から風土へ】挑戦を当たり前にする積水化学の挑み方

 

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⼈々の暮らしの多様な分野で積⽔化学の製品・技術がどのように活かされているのか。
その開発にはどんな想いや物語があり、
それは地球に暮らす⼈々や社会とどのようにつながっていくのか。
「SEKISUI|Connect with」は、積⽔化学とつながる未来創造メディアです。

「挑戦が根づく文化を、組織の“当たり前”にしていきたい」
そんな想いから、社内のイノベーション創発に向けて動き出したメンバーたちがいる。

脱炭素社会への移行、少子高齢化の進行、災害レジリエンスの強化など、解くべき社会課題は複雑さを増し、変化のスピードも加速している。複雑化する社会課題に向き合い、持続可能な未来をつくることは、企業の重要な使命だ。そこでは、従来の延長線上にはない、新たな価値を創造し続ける力が求められる。

こうした背景のもと、積水化学は2020年に「新事業開発部」を新設し、翌年には同部内に「イノベーション推進グループ」を立ち上げた。そこでメンバーが取り組むのは、グループ全社員を対象とする社内起業制度「C.O.B.U.アクセラレーター」(以下、「C.O.B.U.」)である。年齢や部署、キャリアの壁を越えて、誰もが自らの気づきや想いを事業アイデアとして提案できるこの取り組みは、“制度”を超え、挑戦の文化づくりに進みつつある。

挑戦を企業文化にするために求められるものとは。C.O.B.U.の制度設計と運営を担うイノベーション推進グループのイノベーション鈴木、吉田圭佑、北林瑛子の3名に、制度の狙いと実践から見えてきた組織と人材の可能性を聞いた。

“鼓舞”から始まる共創——社員一人ひとりの挑戦を後押しする仕組み

「C.O.B.U.」──この4文字は、いま積水化学における“変革”の合言葉だ。キャリア採用で加わったメンバーや、社内公募に応じて手を挙げた社員など、多様なバックグラウンドを持つ有志が、新事業開発部・イノベーション推進グループに集まってきた。

「“Community of Brave Unicorn”。大きな挑戦に向けて “勇気を持って一歩踏み出すコミュニティ”。もう一つ、“社内外を鼓舞する”という意味も込めています」

積水化学工業 新事業開発部 イノベーション推進グループ長 イノベーション鈴木
積水化学工業 新事業開発部 イノベーション推進グループ長 イノベーション鈴木

そう語るのは、グループを率いるイノベーション鈴木だ。メーカーで新規事業創出の経験を積み、現在は新事業開発部に所属し、「C.O.B.U.」の運営を担っている。

この制度は、積水化学グループ全社員を対象とした新規事業提案プログラム。制度設計を担当する吉田圭佑は、発足当時をこう振り返る。

「制度誕生の背景には、積水化学が掲げる長期ビジョン『Vision 2030』があります。『Innovation for the Earth』をステートメントに掲げたこのビジョンは、2030年に向けて社会課題の解決に貢献する量を倍増させることを目標とし、イノベーションを通じた新たな価値創出に取り組むものです。その実現に向けて、現場起点で挑戦を促し、新たな事業を創出するための仕組みとして本プログラムが立ち上がりました。

2021年に発足したイノベーション推進グループに、社内公募で集まったのは7名。くしくも、積水化学の創業時と同じ人数でした。創業時のメンバーは“7人の侍”と語り継がれていますが、私たちも“第2創業”の気概でこの制度に向き合っています」

積水化学工業  新事業開発部  イノベーション推進グループ C.O.B.U.代表 吉田圭佑
積水化学工業 新事業開発部 イノベーション推進グループ C.O.B.U.代表 吉田圭佑

新事業を創出するC.O.B.U.のステップは明快だ。グループ全体から広くアイデアを募集し、書類審査へ。通過した20テーマはステージ1として約3カ月間の仮説検証フェーズへ進む。ピッチ審査を経て選ばれた5テーマがステージ2の顧客検証へと進み、半年かけて市場検証やヒアリングを重ねる。最終ピッチを経て選ばれた1テーマを起案したメンバーはイノベーション推進グループに異動し、約1年をかけて事業化に取り組んでいく。

この仕組み自体は、いわゆるビジネスコンテストの流れに沿ったもの。新規事業の社内公募制度も多くの企業で導入されている。だが、だからこそ、チームは先行事例をリサーチし、議論を重ねた。自社にとって本当に機能する制度とは何かを見極めるためだ。

「そこでの大きな気づきは、“私たちは製造業である”という現実でした」と吉田は語る。

「SaaSなどのサービス企業であれば、比較的スピーディに事業化へと進める場合もあります。一方、“ものづくり”を担う製造業では、R&Dから実証に至るまでのハードルが高く、社内起業制度の成功事例は決して多くありません。だからこそ私たちは、既存のテンプレートをなぞるのではなく、制度そのものをゼロから内製化する方針を選びました。そして、事業化が見えてきた段階でも事業部門に“丸投げ”せず、最後まで支援を続ける──その姿勢こそが、私たちの覚悟です」

この“覚悟”は、制度の設計にも色濃く反映されている。構想段階から事業実装まで、およそ2年をかけて伴走支援を実施する。こうしたレンジの長い支援により、新たな企業風土を育みつつあるのだ。

制度から文化へ。“挑戦が根づく風土”を育てるということ

C.O.B.U.のプログラムには、2023年度に206件の応募が集まり、その中から20件が選抜された。2024年度も153件と高水準を維持しており、制度を通じて“挑戦する文化”が着実に芽吹き始めている。こうした動きの現場を支える伴走者の一人が、北林瑛子だ。

「アイデアがより良いものになるよう、提案内容の壁打ちや対話を通じて寄り添うことが私の役割です。先導するというより、ともに歩んでいく。そんな姿勢を大切にする中で、一歩を踏み出すマインドを育んでいければと思います」

積水化学工業 新事業開発部 イノベーション推進グループ C.O.B.U. 北林瑛子
積水化学工業 新事業開発部 イノベーション推進グループ C.O.B.U. 北林瑛子

また、プログラムの運営だけでなく社内広報にも力を入れた。なかでも重視したのが、「挑戦者の顔が見えるようにする」こと。ポスターや社内告知物に応募者の顔写真を大胆に用いるなど、視覚的な仕掛けを通じて社内への浸透を図った。

「社内のアクションが可視化されることで、“自分もやってみよう”という空気が生まれていく。デザインの力を組み合わせた北林のアプローチが光りました」と、イノベーション鈴木が振り返る。

ポスターに映る笑顔は、その象徴にすぎない。応募者たちの一歩は、静かに行動へと広がっている。

「ある採択者の方が、スーツをポロシャツに替えて出勤してきました。それだけのこと?と思われるかもしれませんが、長年の習慣として定着していたワークスタイルを変えるのって、実はとても勇気がいること。他にも、制度を通じて得た気づきを後輩に伝えたり、自身の組織の課題に向き合うようになった方もいます。大上段に構えた改革でなくても、こうしたささやかなエピソードの積み重ねが、少しずつ意識を変えていく──私はそう信じています」

吉田も、応募書類の中に強いパッションを感じたという。

「『自分がファーストペンギンになる』といった熱い言葉が寄せられました。第1期では、20代から50代までの幅広い層が参加し、その7割が企画未経験者。製造や間接部門の方々も含め、“やってみたい”という想いを持った多くの社員が手を挙げてくれたのです。積水化学にはもともと、社会課題に正面から向き合い、自ら動こうとする土壌がありました。C.O.B.U.という場が、それを引き出し、かたちにするきっかけになった。この事実そのものが、私たちの取り組みの価値を証明してくれたと感じます」

そんなチャレンジャーを迎えるのが、社内外の審査員を迎えて行われるピッチ審査会だ。イノベーション鈴木は「まるでテレビ番組のような演出で、“M-1みたい”と評されたこともあるんです」と笑う。

「審査会は、頑張った人へのリスペクトを、見える形で返す場なんです。本業を抱えながらも手を挙げてチャレンジしてくれた人たちに、“あなたの努力を見てるよ”と伝えたい。その想いがあるからこそ、映像や演出、細部にまで本気でこだわっています。配信は全社員が視聴できる公開型とし、応募者の姿をリアルタイムで届ける仕組みを整えました。“あの人があんなことを考えていたのか”という発見や、“積水化学の今と未来が見えた”というコメントも寄せられています」

アイデアを具現化しようとする人が主役になる舞台を通して、スピリッツを連鎖させる。それこそが、C.O.B.U.の目指すあり方だ。その先には、“仲間とともに挑む”次なるステージが待っている。

一人ではなく、共に。“仲間”が挑戦を後押しする風土へ

1期・2期の選考通過者は、事業化に向けた検証のフェーズへと踏み出しはじめている。アイデアの芽は実践のフェーズへと移り、新事業開発部との共創が続く。そこに息づくのは、“一人で挑む”のではなく、“仲間とともに育てていく”というC.O.B.U.ならではの価値観だ。

「伴走支援は仲間探しでもあります。同じ想いを持つ人と出会って、一緒に話し合ったり、行動したりすることに、大きな意味がある」と北林は語る。

「伴走する立場から見ていて感じるのは、応募してくださるみなさんの熱量です。ピッチに向けて100人以上にインタビューした方がいれば、その後、社内の別の公募やプロジェクトに応募するようになった方もいます。最初の一歩の意味は、思っている以上に大きいと実感します」

吉田は、熱の広がりをこう捉える。「特に印象的だったのは、そうした熱量のある人たちが、全国に点在していたということ。ピッチという“祭り”の場で、それが一気に可視化され、つながり始めた。それを私たち自身も楽しみたいんです。楽しさの中にこそ新しい試みが生まれるし、制度を定着させるためにも、そんなマインドを育んでいけたらと思います」

制度のアップデートを重ねながら、イノベーション鈴木はその先にあるC.O.B.U.の姿を見据えている。

「門戸をより多くの人に開くためにも、そして、より良い伴走をしていくためにも、私たちは毎年、仕組みを見直し続けます。理想とするかたちはなく、C.O.B.U.という枠組みがなくても創発や共創が自然に生まれるようになっていく——それが究極のゴールかもしれません」

そのためにも、価値観に共鳴する有志を迎え続けることが不可欠だ。イノベーション鈴木は、C.O.B.U.の起点は壮大な事業構想ではなく、一つの「アイデア」にこそあると語る。

「直感的な気づきや小さな違和感のなかにこそ、イノベーションの原点があると私たちは信じています。“これ、どう思いますか?”という一言からでも、私たちはその声に応えていきたいと考えています」

イノベーション鈴木の言葉に、吉田もうなずく。「新規事業を軌道に乗せるのは決して簡単ではありません。でも、その一歩を踏み出すことは、誰にでもできる。日々の対話や業務のなかに、未来を変える種はきっと潜んでいると思っています」

小さな気づきを行動に変える。その一歩を支えるチームが、ここにいる。C.O.B.U.という運動体は今、挑戦が自発的に生まれる組織風土を、着実に育てている。