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長期ビジョンの実現に向けた
中核となる中期経営計画「Drive 2.0」が始動

社会課題の解決につながるイノベーションを起こしながら、「サステナビリティ貢献製品」の売上高を1兆円超へと着実に拡大させ、資本効率・利益効率も改善することで、ステークホルダーの皆様に当社の成長力を示していきます。

代表取締役社長 加藤敬太
代表取締役社長 加藤敬太

メッセージ動画

社長メッセージ動画(4分10秒)積水化学グループの強みや主要事業、目指す方向についてご説明しています。

メッセージ 統合報告書より

新型コロナウイルス感染症が徐々に収束に向かい、対面でのイベントも増えてきました。コロナ禍を経たさまざまな変化に対して、社長はどのように感じていますか。

新型コロナは、2023年5月から日本でもその分類が「5類感染症」へと引き下げられ、少しずつ「日常」が戻りつつあるように思います。私自身もイベントには対面で出席することが増えてきました。久々の対面での開催となった社内イベント「トップと語ろう2023」では、とても真剣に自身や部下の挑戦行動の推進を考える従業員の様子を肌で感じ、改めて対面でのコミュニケーションの意義を認識しました。相手の表情や反応が、場の雰囲気からも伝わる点は、対面コミュニケーションの良い点です。その一方で、私自身は100%、もとの対面形式に戻す必要もないと考えます。新型コロナ禍で得た学びを忘れることなく、ワークライフバランスを含めた効率性や生産性の最適なバランスを探ることが重要だと思います。

前中期経営計画を振り返ってどのように評価していますか。

前中期計画は、長期ビジョンの実現に向けた第一歩と位置づけ、持続的成長へのドライブをかけることを狙いとしていました。2022年度を振り返ると、上期は計画を上回る営業利益を達成し、目標として掲げた1,000億円にも手が届くと見込んでいましたが、エレクトロニクス分野での製品、部材の市中在庫が過剰となったことで市況停滞が長期化したほか、インフレを背景に住宅の購買意欲が低下し、下期は計画を下回りました。その結果、通期での営業利益は917億円と、前中期計画で掲げた目標には届きませんでした。しかし、コロナ禍前の2019年度を上回る営業利益となり、増収増益を確保できた点は、評価しています。

また、稼ぐ力の指標として掲げるEBITDAについては、過去最高の1,421億円となりました。コロナ禍や長引く半導体不足の影響、さらには原燃料価格の急激な高騰など、非常に厳しい事業環境の中でも稼ぐ力を伸ばせたことは、積水化学グループの全従業員が力を結集し、覚悟を持って構造改革やコスト上昇分の製品価格への転嫁を進めた結果だと思います。また、2022年4月には長期ビジョン実現への羅針盤として「戦略領域マップ」を発表しました。マップにおいて、新たなイノベーションを創出する「革新領域」として取り組んできたバイオリファイナリーやペロブスカイト太陽電池などが着実に進展したことは、新事業の仕込みとして一定の“ドライブ”をかけられたと評価しています。社内を見ても、現場の従業員のマインドに、自分たちの仕事が社会に貢献しているという意識が醸成されつつあり、ESG 経営を意識した事業運営が浸透してきたことを感じます。当社は6年連続で、「2023年 世界で最も持続可能性の高い100社(Global 100)」に選出されており、サステナブルな企業であることを目指す当社の経営は外部機関からも一定の評価をいただいています。

長期ビジョン「Vision 2030」実現に向け、中期経営計画「Drive 2.0」に込めた思いを教えてください。

長期ビジョンは、2030年時点の「ありたい姿」を示すものとして、私が社長に就任した2020年に発表しました。新型コロナウイルスの世界的な流行に代表されるように、今後も予測不可能な事象が起こり得る事業環境は続きます。そのような中で、既存事業の延長線上だけで経営戦略を描いていては、ひとたび大きな事象が発生した際に、経営が一気に傾きかねないリスクがあるとの危機感を持っています。そうした健全な危機感をグループ全体で共有し、さらなる変革を起こしながら成長を続けるための旗印となるものが、長期ビジョン「Vision2030」です。2023年度からは、その実現に向けてとても重要な2nd ステップとなる中期計画「Drive 2.0」が始動しました。この中期計画はビジョン実現に向けて中核を担う位置づけです。

私が「Drive 2.0」に一番込めた思いは、ステークホルダーの皆様にしっかりと当社の成長の道筋をお示ししたいという気持ちです。前中期計画はコロナ禍の影響で構造改革に注力したことで、成長投資は限定的となりました。そのため、ステークホルダーの皆様の目には、当社が描く2030年の長期ビジョンが、現在の当社の状況から少し乖離しているように映ってしまうことを懸念しています。

企業価値の向上には、経営への信頼をベースに、成長への期待を醸成し、そのうえで資本効率や利益効率を向上していくことが重要だと強く認識しています。特に、成長への期待については、社外からの期待に限らず、グループ従業員の間にもそうした期待感が醸成されることが肝要です。「Drive 2.0」では、ESG経営の基盤強化をベースに、現有事業での成長を通じて資本効率を改善しながら、新事業領域の創出を加速することで、成長への期待を醸成していきます。

中期経営計画「Drive 2.0」の概要や数値目標について教えてください。

中期計画「Drive 2.0」での目標値は、売上高1兆4,100億円、営業利益1,150億円、純利益820億円といずれも過去最高の売上・利益額を掲げています。その前提となる外部環境には、一定の市況回復を見込み、高騰が続く原材料に関しても、前中期計画同様に販売価格へと着実に転嫁していく計画です。また、当社の成長を牽引すると同時に社会課題解決への貢献量を増やす、まさに経営のサステナビリティを体現するKPIである「サステナビリティ貢献製品の売上高」は1兆円以上と設定しました。稼ぐ力を示す指標であるEBITDAについては、1,750億円と大幅増を見込んでいます。最終年度の2025年度は、長期ビジョンに向けた折り返し地点でもあり、これらの目標を達成することで、長期ビジョンの実現にもさらに一歩近づくことになると考えます。営業利益の1,000億円については、コンスタントにその水準を上回ることが外部からの評価にもつながり、当社にとっても見える景色が変わると考えており、早期での達成を目指します。

財務戦略としては、3年間で営業キャッシュフローを合計5,000億円見込んでいるほか、政策保有株式の縮減や必要に応じて最大4,000億円までの借り入れも行うことで、成長投資に必要なキャッシュを確保します。なお、最大4,000億円の借り入れを実行してもデット・エクイティ・レシオは0.5倍以下を保つことができる試算です。

その上で資本の配分にはメリハリをつけます。成長投資6,000億円のうち、戦略投資に4,500億円、通常投資に1,500億円を振り分けます。戦略投資4,500億円についても、そのうち3,000億円をM&A等の枠として確保し、残り1,500億円は戦略設備投資に充てます。成長投資とは別に、研究開発費として1,400億円を充当しますが、成長投資・研究開発とも、その7割以上を中期計画および長期ビジョンにおける成長分野である「高機能プラスチックス」「メディカル」「新事業」に重点的に配分します。

また、株主の皆様に対する還元も強化します。配当性向を40%以上に引き上げ、さまざまな状況に応じて、自己株式の取得も機動的に実施する考えです。

新中期経営計画の戦略について一つずつ詳細を聞かせてください。
まず、「現有事業での成長」はどのように進めていきますか。

現有事業については、今回の中期計画の策定にあたって、すべての事業を収益性・ROIC・成長性や、戦略上の位置づけ、さらには社会課題解決への貢献量といった視点からも多角的に分析・評価し、中でも今後の持続的成長を牽引する事業・分野として「成長牽引事業」および「成長期待事業」を明確化しました。例えば「成長牽引事業」には、高機能中間膜やEV 車向けの放熱材等を中心としたモビリティ分野のほか、海外検査システム、鉄道用の樹脂製枕木FFUなどの機能材分野を設定しました。一方で「成長期待事業」には、まちづくり事業や医療分野などが含まれています。これら「成長牽引事業」と「成長期待事業」が、「Drive 2.0」で掲げるEBITDA増加分の90%超を生み出す姿を描いており、ここに経営資源を集中させます。

「新事業領域の創出」では具体的にどのような取り組みを進めますか。

コアとなる技術をベースに、社内外との融合やM&Aを通じて、新たな領域での事業化を加速させていきます。例えば前中期計画から、従来のシリコン系の太陽電池と比べて薄く、軽量なペロブスカイト太陽電池に取り組んでいます。ビルの側面への設置や、線路・空港等交通インフラへの実装など、さまざまな可能性を秘めており、多くの引き合いと同時に日本政府や自治体からも高い関心を寄せていただいております。私自身も東京都との実証実験が進む森ヶ崎水再生センターを視察しました。技術的なハードルは高いですが、実現すれば、再生可能エネルギー分野で多大な社会的貢献を果たすことを通じて、相応の事業に成長することを期待し、今後、さらに地方自治体や他企業などとの協業も深めながら、早期事業化に向けて、この挑戦を徹底的にサポートしていきます。

「ESG経営基盤強化」について、具体的に説明してください。

ESG 経営の基盤強化については、前中期計画から「セキスイ・サステナブル・スプレッド」の考え方を導入して進めています。財務指標であるROIC そのものの向上をはかりながら、同時に、不祥事等の重大なインシデント発生の抑制、「環境」や「人的資本」領域への投資、サプライチェーン全体での人権の尊重などを通じて、広義の資本コストの抑制をはかり、スプレッドを拡大、すなわち企業価値を向上させることを意識しています。またこの「セキスイ・サステナブル・スプレッド」を各部門の業績評価に組み入れることで、効果的な実装へとつなげています。

そのような中で、共同住宅・戸建住宅における建築基準への不適合等の問題が起こってしまったことは大変残念です。本件については厳粛に受け止め、迅速な対応と再発防止策の徹底はもちろんのこと、さらなるリスクの低減に取り組み、インシデントを防いでいくことが、ステークホルダーの皆さまからの信頼回復につながるものと考え、全社を挙げて誠意をもって対応していくと共に、ESG 経営の基盤を今後もさらに強化していきます。

当社におけるイノベーションについて、それを創出できる強みとあわせて考え方を聞かせてください。

当社グループにおけるイノベーションとは、得意な技術を活かし、或いは市場の動向を的確に捉え、社会課題の解決に向けて当社にしかできない質の高いソリューションを提供することです。当社は化学メーカーですが、自社原料をほとんど持たず、お客様の要望に対して最適な原料を選択し、付加価値の高いソリューションを提供する「加工」を強みとしています。加えて、社会課題の解決ニーズを先んじて捉える「先取り変革」も、当社の持つもう一つの強みです。

これら強みを支える基盤となるのが、当社の保有する技術プラットフォームです。全社に共通するコア技術として、社内外での融合を推進する鍵を握っています。例えば、当社の主力事業の一つに自動車のフロントガラスに使われる飛散防止用の中間膜がありますが、遮音・遮熱性能を付与した中間膜には、PVA・PVBの材料技術や微粒子技術、精密成型などのさまざまな技術が使われており、そうした技術はヘッド・アップ・ディスプレイ用の機能のある中間膜にも活用されています。さらに、メディカル分野で展開している血液がんを判定する検査薬にも、エレクトロニクス領域での導電性微粒子や遮熱中間膜と同じ微粒子技術が用いられています。モビリティとメディカルという、一見異なる領域に、当社のコア技術が共通して用いられているのです。

こうした技術プラットフォームを軸として、これまで妥協することなくお客様のご要望に徹底的に応え続けてきた実績の積み重ねは今、お客様との強固な信頼関係となって、新たなご要望の獲得をもたらします。「加工」と「先取り変革」の強みが生み出すこうした好循環は、技術プラットフォームの各技術に関する強固な知財網の構築にもつながっており、それもまた、当社の持続的成長を支える基盤となっています。

イノベーションは、世の中の動きやお客様の潜在ニーズと当社技術がマッチすることで初めて起こるものです。製品・サービスがいくら良くても独りよがりのものであれば大きなビジネスに発展することはまずありません。当社が、まだ会社として若かったころは、マッチングを気にせずに多様な事業に手を出し失敗もしてきました。しかし今、当社は初期段階で市場ニーズとの合致を見極め、そこから開発に着手しています。開発テーマの選択と集中が進んでいることは、裏を返せば事業化できれば大きな需要を取り込める製品・サービスばかりだということです。私は常にこうした考え方を発信することで、従業員の背中を押しています。

社長自身がイノベーションの創出に挑戦した経験はありますか。

印象深いのは、私が水口工場の技術課に在籍していた時代に携わった中間膜の品質改善の経験です。お客様からの品質クレームをきっかけに、自動車用中間膜の耐湿性の改善に取り組むことになったのですが、もし改善がうまくいけば、グローバルでの当社製品の優位性がより高まると考え、自ら志願して水無瀬の開発研究所に派遣してもらいました。あらゆる添加剤を試し、先輩方と夜遅くまでディスカッションを重ね、仮説を立てては系統的に実験を繰り返す。そうした試行錯誤の結果、ようやく作り上げた配合は、今もグローバルでの中間膜添加剤のスタンダードになっていると思います。当時はまだ中間膜の事業規模も小さく、住宅事業が稼いだ資金を開発に使わせていただいているというプレッシャーも感じていました。

もう一つは、中間膜技術サービス担当として、自動車産業の本場である米国に駐在していた時の経験です。米国で通用しなければ世界では戦えないとの覚悟で当社は進出しました。積水化学という名は知られていなくても、米国の取引先の非常にフェアな評価は励みになりました。取引先工場にサンプルを持ち込み、評価され、改善点を見つけては、またサンプルを持ち込む。これを繰り返して、少しずつ製品をお客様の理想の形に近づけていく過程は、大変ではあったものの、改善していく実感があり、楽しみにもなりました。

次に、人的資本への投資に対する考え方を聞かせてください。

人的資本への投資の重要性が今のように盛んに言われるようになる、はるか前から、当社では「従業員は社会からお預かりした貴重な財産」と考え、人材を当社の重要課題(マテリアリティ)の一つに位置づけています。またマテリアリティ以前に、人的資本や、取引先も含めたサプライチェーン全体の人権の尊重は、事業を推進していく上での基盤でもあります。当社は長期ビジョンに「業容倍増・貢献量倍増」を掲げていますが、これを達成するために最も重要なのが、「全員が挑戦したくなる活力ある会社の実現」です。事業の成長スピードや変化に対応する人材を育成し、適所適材の配置に引き続き注力します。

私自身も、部下の育成に際しては、適度な「挑戦」といえるテーマを与えることを意識してきました。部下と対話を重ねながら、110%~120%の力を出せれば手が届くテーマを設定し、納得し挑戦した部下が「成功体験」を積める環境をつくってきました。最後までやりきった人材は成長し、次のリーダーへとなっていきます。

2022年には、こうした「挑戦」を従業員に促すため、大規模な人事制度改革を約20年ぶりに実施しました。「失敗を咎めない風土づくり」に私自らも積極的に関わることで、挑戦を後押しする環境を整備し、同時に、挑戦に必要な研修やリスキルへの投資も行っていきます。

冒頭に述べたように、2022年度は厳しい事業環境下でも増収増益を達成しており、そうした成果を生み出した従業員にしっかりと報いることも重要です。これからも、従業員一人ひとりがより一層挑戦行動を発現して、長期ビジョンの実現に尽力してくれることを期待し、2023年度は4%超の賃上げを決定しました。

リスキルについて、社長自身の経験やエピソードはありますか。

実際の業務に役立ったのが、入社後、統計的品質管理の勉強をしたことでした。学校ではあまり教わらない考え方ですが、技術者として効率的な実験やデータ処理を進める上で大いに役立ちました。当時は計算ソフトもなく、自分で実験データを入力して解析する必要があった時代です。今日では現場の自動化が進んでいますが、トラブル発生時の原因究明や改善方法の追求、さらには現場のQC 活動等の推進を考える上で、こうした知識は今も、技術・生産に関わる従業員にとって不可欠だと思います。

パリ協定と整合性のあるGHG削減目標を定めている企業に与えられる「SBT認証」を2023年に再取得しました。
「環境」に対する当社の取り組みについて教えてください。

「環境」は当社のマテリアリティの1つであり、早期から「環境経営」を進めており、業界でも当社は「環境」への取り組みについては、トップ集団の一員であると自負しています。深刻化する気候変動に対し、他社も環境への取り組みを加速する中で、トップランナーとして現状に甘んじることなく、環境への貢献を推進し続けなければなりません。SBT認証については、当社は2018年に化学業界として世界で初めて取得しましたが、GHG 排出量の削減率が当時の計画を大幅に上回る形で推移していることもあり、2030年に向けて削減率目標をさらに引き上げ、それにあわせて改めてSBT認証を再取得しました。目標達成に向け、引き続き燃料使用設備の電化や低炭素燃料への転換を進めると共に、プラスチック製品を扱う企業の責任として、新たに「マテリアルリサイクル率」をKPI に設定しました。資源循環や資源転換に資する製品の売上高を伸ばすことで、廃棄物の再資源化を進め、さらにScope 3での排出量の削減も加速していく考えです。

最適な事業ポートフォリオと資本配分のあり方についての考え方を聞かせてください。

多様な事業を展開する当社は、コングロマリットとしてディスカウント評価されることもあります。成長分野に資本を重点的に配分することはもちろん必要ですが、多様な事業を有するからこそ、事業間のシナジー効果で事業単体では生み出すことのできない価値も創出できると考えます。例えば、当社が展開する「まちづくり」事業では、エネルギーを自給自足できる当社の住宅が建ち並ぶ「まち」の地下に、災害に強い当社のインフラ材料や高機能材料を埋め込むことで「防災・減災」「安心・安全」という付加価値を付与してお客様へ提供しています。また財務面に関しても、安定的にキャッシュを創出する事業を保有することで、成長分野への継続的な投資の原資を確保できるメリットもあります。

成長投資に関しては、必要に応じて負債も活用しながら、積極的に投資を拡大する戦略に変更はありません。長期ビジョンの実現に向けては、羅針盤である「戦略領域マップ」に沿って、適切な戦略設備投資やM&Aを実行していきます。

終わりに

株主・投資家の皆様をはじめとするステークホルダーの皆様と建設的な対話を重ねることは、当社が持続的に成長し企業価値を高めていくための非常に重要な機会と捉えています。対話を通じていただいたご意見・ご提言は、今後もこれまで同様、当社の経営に活かしていきます。引き続き、当社の成長にご期待いただきながら、変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。