道路の下に、新しい守り方を。共創が形にした管路の防護技術
公開日:
その開発にはどんな想いや物語があり、
それは地球に暮らす⼈々や社会とどのようにつながっていくのか。
「SEKISUI|Connect with」は、積⽔化学とつながる未来創造メディアです。
私たちが日常的に利用しているスマートフォンやインターネット。その通信を陰で支えているのが、道路の下に張り巡らされた「地下通信管路」だ。しかし、地面から浅い位置に埋設された管路は、掘削工事による損傷リスクという課題を抱えている。そこで開発されたのが、管路の内側から通信を守る「浅層埋設管路防護技術」。NTTの構想を、積水化学はいかにして量産と現場施工を見据えた部材へと形にしたのか。共創の舞台裏に迫った。
道路の下に、既存工法ではガードできない通信インフラがある
道路補修や水道工事などで、舗装を切り、地面を掘る。街で日常的に見かける光景だ。その足元に通っているのは、通信ケーブルを収容する地下管路だ。しかし、管路の埋設位置が浅い区間では、道路カッターや重機が管路に達し、誤って傷つけてしまう恐れもある。損傷が内部の通信ケーブルにまで及べば、通信サービスの停止につながりかねない。
こうした事故を防ぐため、管路の外側に防護部材が設置される。しかし、この方法では対応しにくい場所もあるという。新技術の導入や社外発信を進めるNTTの田代善彦氏が解説する。

「従来の防護方法では、地下管路の外側に防護部材を設置するため、地面を掘り起こす開削工事が必要です。費用がかかるうえ、工事規模や環境面での負担も大きくなります。さらに難しいのは、管路が地表から非常に浅い位置にある『浅層区間』です。外側に防護部材を置くスペースそのものがなく、既存の方法では対応が困難だったのです」
今回の防護技術開発の主担当として、当時NTTの研究所に所属し技術構想から具体化までリードしたNTTインフラネットの渡邉栄貴氏も、この課題の困難さに触れる。
「管路の中は、通信ケーブルを通すためのスペースだけでもぎりぎりです。そこへさらに防護部材を入れるのは、物理的に厳しい。対策が必要だと分かっていても、なかなか本格的な開発に踏み出せない状況があったのです」

外側からは守れない。内側にも、十分な空間はない。この行き詰まりをどう乗り越えたのか。
外に置けないなら、内側へ。新型部材が誕生
NTTが見いだした答えは、管路の内側に防護機能を持たせることだった。発想はシンプルだ。しかし、実現は容易ではない。
渡邉氏らは2021年から研究を始め、防護機能の条件を一つずつ定めていった。この壁を打開するパートナーとして、NTTが声をかけたのが積水化学だ。既存の管内挿入管「PIT」で培った知見を生かして共同開発を進めた。構想や要求条件をすり合わせたうえで、ブレイクスルーにつながる新型「PIT」の設計を本格化させていく。
開発を担当したのが、エンジニアリングセンターの川地奏だ。入社2年目で前例の少ない開発に向き合った川地が、そのプロセスを振り返る。

「従来の『PIT』は、すでに敷設されているケーブルを両側から抱き込めるよう、二つの部材を組み合わせる『半割構造』でした。ただ、今回はケーブルに加えて、セラミックやチューブも収めなければなりません。『半割構造』における上下嵌合機構にもスペースを取られるため、まず『半割構造』をやめ、一体型にするところから検討しました」
一体型にすれば、接合部に使っていた分だけ内部空間を広げられる。だが、管材を薄くしすぎれば強度が落ちる。水密性を保つシール部材のスペースも必要で、量産には射出成形しやすい形状でなければならない。相反する条件を、どう一つの断面に収めるか。川地らは設計の最適解を探っていった。
「積水化学グループで射出成形の知見を持つ山梨積水の担当者にも相談し、樹脂が金型の中をきちんと流れるか、成形後に金型から抜ける形状になっているかまで確認しました。一つの条件を変えると別の部分にも影響が出るので、形状を何度も見直しながら詰めていきました」
需要が不透明な中でも、技術的に可能なのかどうか別軸で検討する必要があり、量産用金型に投資する前に、要求性能を満たせることを確かめる必要があった。
そこで活用したのが、光造形や3Dプリンターだ。評価項目ごとに必要な材料特性を整理し、塩ビに近い物性を持つ試作材料を選定。金型がない段階でも、実製品の性能を見極められる評価方法を確立した。
立体の試作品は、両社のすり合わせにも役立った。積水化学が設計した「PIT」に、NTTが検討したセラミック部材を組み合わせ、断面の収まりを確認する。図面だけでは見えにくかった課題を共有できるようになり、開発のスピードも大きく上がった。

力覚×視覚で異常を知らせる、二段構えのアプローチ
限られたスペースに防護部材を収める形は見えてきた。次に問われたのは、工事の現場でどう機能させるかだ。舗装を切る道路カッターが管路に接触したとき、通信ケーブルをどう守るのか。
まず採用したのが「力覚検知」だ。カッターの刃が硬い部材に当たると、切断速度が落ち、作業者に普段とは異なる抵抗が伝わる。その違和感から異常を知らせる仕組みだ。
ただ、管路内に収められるセラミックには大きさの制約があり、抵抗だけで作業停止までの時間を確保するのは難しい。渡邉氏は、作業者の反応も含めて考える必要があったと話す。
「車の運転でも、危険を感じてからブレーキを踏むまでには時間がかかりますよね。工事現場でも同じで、手応えだけに頼るのは難しい。そこで、視覚でも異常に気づきやすい仕組みを加えました」
それが、発色による「視覚検知」だ。新型「PIT」の内部には、粉末の着色料を封入したチューブが配置されている。カッターの刃がチューブに達すると、着色料が冷却水に溶け、赤く色づいた水が路面に現れる。作業者が危険を直感しやすい色として、赤色が選ばれた。

「さらに、実際の管路内では、挿入した部材がねじれなどによって回転することも考えられます」と渡邉氏。道路カッターも、必ずしも真上から垂直に入るとは限らない。
そこでセラミック部材を複数方向に配置し、直上だけでなく、15度や30度の角度から刃を当てる試験も行った。部材が回転した場合や、刃が斜めから接触した場合にも、手応えと発色の機能が働くことを確かめていった。渡邉氏が振り返る。
「この技術が目指したのは、どんな刃でも決して切れない部材をつくることではありません。限られた空間の中で、通信ケーブルに刃が届く前に異常を知らせ、作業を止めてもらうことです。『管路を守る』から『通信を守る』へ。そこが、この技術の大きな転換点だったと思います」
全長250mの実証を終え、社会実装を見据える
防護機能を備えた技術も、現場で施工できてこそ、その価値を発揮する。開発のクライマックスとなったのが、NTTの研究所構内で行われた全長250mの施工性評価試験だった。
試験では、縦横に複雑なカーブを組み合わせた管路を地上に再現。距離が延びるほど押し込み抵抗は増し、上向きの曲線部では部材の自重も負荷となる。渡邉氏が当時を語る。
「250mは、通信管路の一区間として想定される最大長です。補助治具や押し方を現場で工夫しながら、一歩ずつ進めていきました。最後まで全区間を施工できたときは、本当にほっとしました。現場への導入に向けた手応えを得られた瞬間でした」
設計を担った川地も、試験を終えたときの安堵を口にした。
「部材単体の評価だけでは、長く連結した状態でも強度を保ち、最後まで施工できるかは分かりません。250mを通し切ったことで、設計が実際の環境でも生きると実感できました」

部材の設計、性能評価、そして実環境を模した施工性の確認。各段階の課題を乗り越え、2024年、本技術は研究開発上の「開発完了」という節目を迎えた。
2026年1月には、開削工事を必要とせず、コストや環境負荷を抑えながら浅層区間を防護できる点が評価され、第9回インフラメンテナンス大賞の「総務大臣賞」を受賞している。
次に見据えるのは、確立した技術を設備の導入へどう結びつけるかだ。田代氏は、まず通信分野で導入実績をつくることが重要だと語る。
「NTT東日本、NTT西日本、NTTインフラネットなどと協議しながら、この技術の可能性を探っていきたいと考えています。IOWNに関連する新たなネットワークルートの強靱化にも活用できないか、社内で提案しながら検討を進めていきます」
受賞は、ゴールではない。今後は、導入が見込まれる区間や需要、量産に必要な投資規模を見極めながら、実用化に向けた条件を整えていく。川地は、その先を展望する。
「技術として確立し、外部からも評価いただけたことを大変意義深く受け止めています。実際の製品として社会に届け、インフラの安心・安全への貢献に結びつけていきたいと考えています」
現場の課題を示したNTTと、管材の設計・成形技術を培ってきた積水化学。両社の知見が重なったことで、これまで守ることが難しかった浅層区間に、新たな選択肢が生まれた。その技術を社会に根づかせ、通信インフラの未来を支えていくために。両社の共創は、さらに続いていく。


