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サステナビリティ貢献製品の創出を通じた
“未来につづく安心”の価値創造ストーリーを
監督、支援していく

2024年8月独立社外取締役 畑中 好彦

コーポレート・ガバナンスにおける取締役会の有効な「監督」機能について意見を聞かせてください。

どのような形で社会に価値を提供していくかという企業のパーパスとして、当社では「サステナブルな社会の実現に向けて、LIFEの基盤を支え、“未来につづく安心”を創造する」を掲げています。このパーパスに向かうストーリーを、執行側が社会規範に沿った方法によって、株主、従業員、地域社会なども含めたあらゆるステークホルダーの信頼を得たうえで、最も効果的に追求できているかを監督し、また必要な支援を行うことだと考えています。

一般的に取締役会は監督機能を担うとされていますが、積水化学グループにおいてはカンパニープレジデントが取締役として執行と監督を兼務しているという特徴があります。この特徴についての考えを聞かせてください。

企業のパーパスを実現するために、執行側と取締役会が建設的な対話を深め、効果的に経営していくことが大前提であって、その目的を果たすためのガバナンスのあり方は企業ごとに異なっていてもよいと考えます。また、当社が目指す姿は、サステナビリティ貢献製品を通じて、企業の成長と社会課題解決の双方を両立させながら経営を進めることです。その特性上、新事業や新技術はコーポレートが関わって事業化に向けた役割を担う一方で、現有事業における個別技術や製品に関しては各カンパニーのもとで事業ごとに戦略立案・予算管理などマネジメントが行われていることから、全社レベルで全事業のポートフォリオを有効に監督するためには、重要な要素技術、製品の開発、市場動向や競争力を理解したうえでの審議が欠かせません。それらを踏まえると、現在の当社経営を考えるうえで、各カンパニー責任者が取締役会メンバーであることは、ガバナンスの観点からも非常に重要であると考えています。

当社グループの取締役会の実効性、および報酬のあり方について、どのように評価していますか?

社外取締役に就任して1年が経ちましたが、審議に必要な情報は事前に提供され、ブリーフィングも行われていますし、課題審議も適切なタイミングで行われています。また、取締役会での議論は、多様な観点から活発に意見が表明されています。特に、社外取締役が質問したことに執行側が答えるというQ&Aセッションに陥りがちな取締役会もある中で、当社の取締役会においては「では次に向けてさらに何が必要か」というところまで議論されていることからも、極めて高い実効性が担保されていると評価しています。

報酬についても、過半数を社外取締役で構成する任意の指名・報酬等諮問委員会で議論、取締役会で決議という体制をとっていますから、透明性は担保されています。一方で、報酬水準そのものや報酬体系については継続的に審議し、柔軟に変更も検討していくべきだと考えています。その背景としてあるのは、これほどグローバルに競争力のある高い技術をもっている会社をマネジメントするケイパビリティに加え、グローバルに事業を展開していることによる全社リスクの両面を考えると、よりグローバル水準を意識した報酬のあり方を検討すべきだと考えます。

社長を中心とするシニアマネジメント層の報酬をグローバル競争をより意識したものに変えていくことは、当然リンクして従業員の報酬水準や報酬体系、KPIも変わってきます。結果、当社の成長に必要な人材をより採用しやすくなり、報酬体系の見直しが、当社全体のケイパビリティをグローバル競争に真に堪えうるものへと進化させていくことにつながるのではないかと考えています。

積水化学の長期ビジョン「Vision 2030」も残り6年となっています。達成に向けて今何を意識すべきだと考えますか?前中期計画から実行できていないM&Aについての考えも聞かせてください。

中期目標と聞くと、どうしても数値目標に意識が向きがちです。しかし、私が重要視しているのは、当社が社会に提供したいこと、つまり「サステナブルな社会の実現に向けて、LIFEの基盤を支え、“未来につづく安心”を創造していく」という素晴らしい考え方を実現するための技術、製品、仕組みの社会実装が今どこまで進展しているのか、という点です。そこが順調に進んでいれば、数値的な結果もついてきます。戦略投資枠については、オーガニックな成長のための投資の優先順位、投資規模、組織能力向上に目を向けると同時に、時間と能力ギャップを一気に獲得、解決する必要がある際は、M&Aを躊躇せず柔軟に組み込む必要があると考えます。そのための準備をコーポレート、各カンパニーがやっていますが、常にロングリスト、ショートリストをアップデートして検討を継続しておくことが重要です。

さらに、私の経験上、M&Aは実施してそこで終わりということはあり得ません。どうしても目の前のM&Aばかりに目を奪われてしまいがちですが、単発で一挙に課題が解決することはなく、「次はどのような投資が必要か」「さらにM&Aを重ねてどのような能力を組み込むべきか」のように、M&Aを起点としたさらなる成長戦略を合わせて考える必要があります。取締役会の場においても、M&A審議の際にはこのような観点から議論するようにしています。

金融市場では、PBRの改善やROICなど資本コストを意識し企業価値を向上する経営が求められています。市場の要請に対し財務面で考慮すべき点について、経営者の視点から意見を聞かせてください。

資本効率の観点は当然意識しています。人的資本の投資も含めて、当社が社会に提供する“未来につづく安心”という価値を最大化するための経営を行っているか、という自己点検を継続していくことが重要だと考えています。

PBR、ROIC等については、当社では様々な角度から十分に意識した経営がされていますが、同時に、さらに成長性やフリー・キャッシュ・フローをベースに、リスク許容度を上げていくことが重要だと考えます。成長と共にフリー・キャッシュ・フローが伸び続ければ投資余力が出てきますから、この好循環を常に意識しています。

投資家から「最も重視している経営指標は何ですか?」という質問を受けることも多いと伺っていますが、当社をシンプルに理解してもらうには、「サステナビリティ貢献製品が社会にどれだけ実装されているかを見てもらえれば、当社の価値が向上しているかわかります」と答えるのが一番なのではないかと思います。

昨今、サステナビリティを前提にした事業構築、さらに気候変動、人権などに対する潜在的なリスク対応が求められています。サステナビリティ貢献製品を最重要KPIとして位置付け、売上の75%を占めている当社にとって、社内外に与えるインパクトの可能性や課題について考えを聞かせてください。

環境課題への取り組みを俯瞰的、定量的に把握・管理するため、当社はLIME2およびインパクト加重会計などの手法を用いて、企業活動が自然資本および社会資本に与える負荷と貢献量、さらに経営に対するインパクトの可視化を行っています。LIME2は環境影響評価手法の一つであり、これが標準化されてくれば当社にとって大きなアドバンテージとなります。現状では様々な考え方、手法が提案されている状況ですが、LIME2のような手法による評価の有効性が認識され、標準化されていくよう、発信や他企業への訴求、支援を対外的に行っていくことも有効なのではないかと考えています。

そのためにも、まずは当社において、先ほど触れたサステナビリティ貢献製品のインパクトについて、提示可能な部分を定量的にしっかりと示しながら、ステークホルダーの皆さまに広くわかりやすく発信していくことが大事だと考えます。

当社にとってのイノベーションの重要性をどのように考えますか?
また競争優位性を確保するために何が必要だと考えますか?

自社研究はもちろん重要ですから、コーポレート、カンパニー間の協力をこれまで以上に強化していくことは大事ですが、自社、自部門にこだわり過ぎ機会を失うことは避けるべきです。当社が掲げるビジョンステートメント「Innovation for the Earth」を実現するには、世界中にある技術シーズへのアクセスをより一層強化し、そのシーズと当社がもっている社会実装力を掛け合わすことで圧倒的なスピード、競争力、技術レベルをもつ次の製品候補を増やしていくことが最も求められると考えます。当社は現在も積極的にオープンイノベーションを進めていますが、さらに広く外部と連携、協力して研究を進めていくことが重要です。

一方で、コモディティ化して競合が当社以上に競争力をもった製品や事業は、適切な時期を見極めて事業譲渡も考慮し、常に成長力、競争力をもつ事業ポートフォリオの強化を意識することが必要だと考えています。

ものづくりのパートナーとしてもAIがその影響力を高めています。AIを活用した人的資本経営を行ううえで何が必要か、考えを聞かせてください。

生成AIやVR 、AR 、メタバースなどは黎明期からすでに普及期に入り、私たちの日常に当たり前に存在しています。各事業、各職務においても様々な場面で積極的に活用し、一定のルールの下で進化させ、それぞれの技術進化を当社競争力に変える段階であると思います。ただ、これらの技術の進化スピードは極めて速いことから、社内にもエキスパート人材を一定数以上配置し、ユーザーニーズに柔軟に対応できる組織能力の構築も急務です。

また、当社競争力の本質に関わる技術の開発、生産技術、品質等へのAIの活用には、高度な業務知識と共にAI応用力をもつ人材を配置する必要があります。内部、外部人材も含めて広くタレントプールに目を向けることが求められますから、雇用形態、報酬面でも柔軟に対応していくべきだと考えます。

長期ビジョンの達成には海外売上高の拡大が鍵となります。ダイバーシティの重要性と共に、グローバルな事業展開においてはどのような企業文化、共通認識を共有していくことが有効だと考えますか?

当社には“未来につづく安心を届ける”というパーパスがあり、「3S精神」というバリューをもっていますので、このフレーズを繰り返し伝え続けることです。今、当社が一番やりたいことを繰り返し発信して、共有していくことが重要だと思っています。

私自身は合併した会社の経営に携わった経験がありますが、その際もこの企業では何をするのか、何を大事にするのかをシンプルに伝え続けたことで、世界のどこに行ってもこれらの共通認識が浸透しました。伝え続けると、いずれ皆さんの腹に落ちる。納得すると、一人ひとりが日々、その企業のおもいを自分の判断基準とし、行動の拠り所にもつながっていくと思います。さらに、社内研修、海外拠点との交流、カンパニー間の交流等の場を使って、「今、積水化学がやりたいこと」について議論する機会が多ければ多いほど、一つの文化の形成が可能になっていくと考えています。

当社では今、「挑戦する風土」の醸成に取り組んでいますが、社員に挑戦を求めるのはなぜなのか、何のための挑戦なのか、についても、パーパスと紐づけるのがわかりやすいと思います。さらに、挑戦した結果がどう評価されるのか、「失敗を恐れず」というからには、挑戦して目標に至らなかったときにどのように評価するのかまで具体的に示すことが大事で、それが個人のキャリア、さらに組織の成長のためにもなると考えています。

最後に、株式市場から積水化学に期待してほしいことについて考えを聞かせてください。

私自身が社外取締役の職を引き受けたときには、素晴らしい技術をもつ社会への貢献力に富む企業であるとの第一印象と共に、複数の事業、多様な技術をもつ当社の取締役として、企業価値向上への貢献がどのようにできるかを、自身に繰り返し問いかけました。株式市場から見ても同様の面があり、個別事業、個別技術の価値と企業価値全体の関係の理解が難しい企業の一つであろうととらえています。

当社がやりたいことは、“未来につづく安心を届ける”というパーパスを実現するために、サステナビリティ貢献製品を通じて社会に貢献することです。そして、当社がもつ技術によって今後も継続的にサステナビリティ貢献製品を拡大し、くらしの根幹にある課題を解決していくという、当社が社会に提供している価値を訴求していくことが重要だととらえています。その価値創造のストーリーをもっと評価してもらえれば、実は極めてわかりやすい会社であると思いますし、当社側は、よりシンプルにわかりやすく、当社の社会価値および株主価値創造の力を発信することが求められていると考えます。